日本の新聞は今や生き残り賭けた競争に、クオリティ・ペーパーへの脱皮チャンス ジャーナリズム評価される調査報道や分析重視を、戦略的強み活かす必要も


時代刺激人 Vol. 68

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

2010年という、新しい年に入ったにもかかわらず、日本のメディア、とりわけ新聞社の経営陣にとっては、晴れやかな気分にはとてもなれる状況でない。広告、販売収入という新聞の主たる収入源が軒並み大幅減少に見舞われ、それが一過性どころか構造問題になっているからだ。主要な大手新聞社で経営に携わる私の友人たちの年賀状のあいさつも、「ただ、耐えるしかない」「事態打開のビジネスモデルづくりに躍起」といった窮状を訴えるものばかり。
 こんなことを書きだすと、日ごろ、経済メディアからの取材記事で厳しく経営批判を浴びている企業経営者から「冗談じゃない。問題の所在がはっきりしていたのに、問題先送りしてきた結果だけなのでないか。他人を批判する前に、自身の経営再建に全力を投じるべきでないか、と言いたい」といった冷やかな批判の声が聞こえてきそうだ。そこで、今回は、今も現場で取材活動などにかかわる生涯現役ジャーナリストの立場で、毎日新聞やロイター通信での私の経済記者経験を踏まえて、日本の新聞は生き残れるのか、というテーマを取り上げてみたい。

経営体力をすり減らしながら、状況に流されジリ貧状態に陥る可能性が大
 結論から先に申し上げれば、今年はそれぞれの新聞社が生き残りを賭けた厳しい競争にさらされるが、結果的に経営体力をすり減らしながら、ジリ貧状態に陥るのは間違いない。理由ははっきりしている。ほとんどの新聞社経営者が事態を打開する大胆なビジネスモデルを持ち合わせていないか、あるいは問題の所在が分かっていても、いざ手をつけようにも実行リスクが多すぎるとみて、二の足を踏むためだ。とくに後者の方が多いのが現実だ。
 新聞社同士の経営統合も1つの選択肢だ。しかし、かつてのような部数拡張時代ならば、統合による部数の多さが一気に広告アップなどにつながるメリットがあったが、今は経営的にほとんどメリットがないので、多分、とり得ない選択だ。このため、結果的に、各新聞社で経営無策に等しいことは百も承知ながら、編集現場での取材費の切り詰め、ボーナスカット、それでも抜本解決にならない場合、大胆な早期退職者募集の形で人件費の大きなカタマリをそぎ落とす方向に走るだろう。だが、それらのあおりで、編集現場の士気が落ちて紙面の質低下を招来するという悪循環に陥るリスクがある。

問題なのは、新聞社の経営陣は、どの新聞社もほぼ、編集出身者が占めていることだ。新聞社によって政治部長、経済部長、さらに社会部長経験者とまちまちながら、トップはほぼこの3系列。販売や広告、あるいは経営企画、労務、総務の出身者がトップを極めることは、よほどの事態がない限り考えにくい。新聞社では当然のことながら編集部門が独特の力を持っている。「俺が」「俺が」の世界で、互いに力を誇示して競いあう世界なので、結果的に、新聞社組織で上昇志向、権力志向の強い人が経営トップになる。

有能な経営人材の外部招致かアドバイザリーボードが選択肢、いずれも拒否反応
 こういった人たちは、新聞社内で権力を握ることに最大のエネルギーを費やしてばかりいたため、まずはマーケットの時代、スピードの時代に対応した経営の才覚はゼロに近い。どちらかと言えば、ポスト確保の権力志向が先に働いていたので、経営のための勉強も、ほとんどやって来ていない。編集記者経験があるため、取材力や問題の所在把握力はあるが、5年先あるいは10年先を見通した経営という発想は持ち合わせていないため、どうしても状況に流されてしまい、問題先送りしてしまうケースが多い。
 私に言わせれば、新聞社の経営問題がここまで重大事態に至った限りは、経営と編集は明確に分離し、外部から有能な経営人材を招き入れるぐらいの才覚が働けばいい。今は、そのチャンスかもしれない。その場合、現経営陣はプライドが許さない面が出るかもしれないので、それに備えて、その新聞社に愛着や興味を持つ経営人材をあらかじめ見定めて、招くのがいいと思う。こういった人たちは、妙なしがらみがないため、新聞社経営の強み、弱みを見極め、強みを活かすには何がベストか、示してくれるかもしれない。一歩譲って、アドバイザリーボードに優れた外部経営者を招くというのも一案だ。率直に言って、新聞経営はそうした経営のプロに頼らざるを得ないところまで来ているのだ。
しかし、悲しいかな、いま、どこの新聞経営者の間でも、これには拒否反応を示す可能性が強い。権力闘争でやっと手に入れた経営トップの座をなぜ、経営再建のためという理由だけで、外部人材にゆだねなければならないのか、という発想になってしまうのが目に浮かぶ。

英ロイターは記者経験ゼロのM&A弁護士の経営裁量を評価、CEOに抜てき
 私が毎日新聞から転職した先の英国系ロイター通信では、米国から編集記者経験がない、しかもM&A専門の弁護士だったトム・グローサー氏を経営陣に招き入れ、ロイターの経営で何が課題かなどを学ばせてから2001年にCEOに委嘱し経営をゆだねたのだ。
当時、現場にいた私にとってはサプライズの一語だった。トム・グローサー氏の経営手法がベストだったとは、今でも思わないが、英国の通信社というプライドで経営してきたロイター通信が、自国内どころか米国から、しかも編集記者経験がない弁護士を経営陣に招き入れるのを見て、マネージメントの世界にはジャーナリストのうかがい知れない世界があるのだと思った。トム・グローサー氏は、通信社がマーケットの時代に影響力を発揮するメディアとして生き残るには経営統合による経営基盤の強化しかないと判断、カナダの金融情報サービス大手のトムソンとの統合に踏み切り、いまや社名もトムソン・ロイターに変えた。
 われわれ経済ジャーナリストの取材先の製造業で、たとえばソニーなどのようにグローバル展開している企業だからかもしれないが、外国人経営者をトップに据える経営をやっている。日本の新聞社が、英フィナンシャル・タイムズの元経営者をCEOにといったことは考えにくいが、経営再建という一点にしぼって、日本国内の企業から、外部の優秀な経営人材を招き入れる心構えが必要になる時代がやってくるかもしれない。

毎日新聞には政策提案型の新ビジネスモデルを進言したが受け入れられず
 私は、それよりも、日本の新聞社はビジネスモデル自体を大きく変える時代にあるように思う。具体的にどうすればいいか、そこがポイントだ。私がかつて在籍した毎日新聞で、転職する前に経営陣の一部に進言したのは、朝刊・夕刊セットで全国展開する新聞発行スタイルを止めて、大都市を中心にした都市型のクオリティ・ペーパーに模様替えすべきだ、というものだった。
 当時、毎日新聞は3大紙の一角を担っていたが、経営に次第に厳しさが加わり、部数が低迷どころか落ち始めていたころだった。このまま漫然と朝刊・夕刊セットの全国紙経営スタイルでは、いわゆる戦線が延び切ってしまっていて、経営が持たないこと、それよりも商業新聞の枠組みを捨てて、調査報道や分析解説、さらには政策提言などの新しいクオリティ・ペーパーで新機軸を出せば、大手新聞ではどこも導入していないビジネスモデルなのでうまくいくこと、今のままジリ貧状態になるよりもはるかに時代先取りの新聞経営スタイルでないかということ、さらに、部数拡張に躍起になっていたライバルの朝日新聞や読売新聞は人件費を含めた高コスト構造のもとで、いずれ経営に無理が来るので、それらの新聞とは一線を画す経営が重要であることーーなどが進言ポイントだった。
「お前は、それでも経済記者か。そんなことを経営方針として打ち出した瞬間に、ライバル紙の格好の餌食となり、読者や新聞販売店が食い散らかされる」と手厳しく批判されたのを今でも憶えている。この話は、すでに20年も前のものだが、今でも、やりようによっては十分に生きるモデルだ。

マードック氏はデジタル時代でもジャーナリズムの強みを発揮し生き残れると指摘
 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で2009年12月、新聞などのメディア買収で有名なニューズ・コーポレーション会長のルパート・マードック氏が「新技術はジャーナリズムの脅威でない」と題する寄稿の中で、なかなか興味深い指摘をしている。少し引用させていただこう。
「われわれは今、多くの報道機関が閉鎖または規模縮小している時代の真っ只中にいる。そのジャーナリズムが死に体なのは、(インターネットなどの)デジタルメディアの勝利が原因だという声が聞かれる。しかし私の意見はその逆だ。ジャーナリズムの将来は、かつてないほど明るい。(中略)新聞は読者の利益を代弁し、彼らに重要なニュースを届けることで信頼を勝ち得てきた。それは政界や財界の汚職を暴き権力者に立ち向かうことだ。デジタル技術の発展によって、ジャーナリズムはそれらの取材、報道活動を一段と大きなスケールで行うことが可能になるのだ」
 「ニューズ・コーポレーションは、放送網の一部を利用して傘下のテレビ番組と、さらに新聞のコンテンツも携帯機器で受信できるようにするプロジェクトに取り組んでいる。(中略)多くの読者がいろいろな技術を用いてニューズ社の新聞サイトに、さまざまな時間帯にアクセスしている。たとえば通勤中にブラックベリーでウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事の一部を読むかもしれないし、オフィスに着いたらパソコン上で読むかもしれない。(中略)今後、質の高いジャーナリズムの命運は、報道機関が料金を支払うに足るだけのニュースと情報を提供することで顧客を獲得できるかどうかだ」

「新聞がすべて」の発想を止め、ニュースをパソコンなどとのメディアリンクに
 要は、時代の変化に対応して、新聞メディアがパソコンや携帯電話などさまざまな情報ツールをうまく活用し、ハードコピーとしての新聞だけが自分たちの主舞台だと思わず、あらゆるソフトの情報ツールも自分たちの戦力だと思えばいいのだ、という主張だ。
 確かに、今、日本の新聞社のウエブサイトは、スピードの時代、マーケットの時代、さらにはグローバルの時代に対応できておらず、ニュース内容が面白みに欠ける。それはハードコピーとしての新聞編集現場に優秀な記者を配置し、ウエブサイトなどのメディア編集現場には人材を配置せず、ニュースも新聞の要約ものだけを流すスタイルなのだ。マードック氏が指摘するようなハード、ソフトのリンク、さらには重要ニュースは新聞だけでなくパソコンでも携帯電話画面でも読める、ただし、情報料として課金、つまりおカネをいただく、というスタイルにはビジネスモデルそのものがなっていない。新聞がすべての経営発想から抜け切れていないのだ。
日本の新聞社の持つ編集の人的資源の優秀さ、取材力の強さは捨てたものでもない。失礼ながら、テレビ局や雑誌社などから見て、取材力の面では負けてはいない。ただ、残念ながら座標軸をしっかり持って取材する記者が少なくなっており、せっかくの強みを活用できていない。新聞社の経営陣は、本気で新しいビジネスモデルづくりに取り組み、これら他のメディアに比べて強みであるはずの記者を鍛え直して、いいニュース発信することだ。いかがだろうか。

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