日本はおもてなしサービスの戦略商品化を 「7分間新幹線清掃チーム」は強み、磨き必要


株式会社JR東日本テクノハートTESSEI

時代刺激人 Vol. 267

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

最近、東日本大震災の被災地復興の定点観測や北関東、東北地方への出張、旅行でJR東日本の新幹線利用ケースが多い。

最近、東日本大震災の被災地復興の定点観測や北関東、東北地方への出張、旅行でJR東日本の新幹線利用ケースが多い。そのつど、すごいなと思うのは、東京駅での分刻みの新幹線の定刻発車運行管理が1つ、それと新幹線清掃チームが折り返しで次の目的地に向けて出発する新幹線内の清掃サービス作業を、わずか7分間内に手際よくやることだ。とくに「7分間新幹線清掃チーム」に関して、米ハーバードビジネススクールの教授陣が顧客サービスのモデル事例として現場見学したうえでケーススタディ必須科目にしたほど。
そこで今回は、これらJR東日本の新幹線運行管理システムや清掃サービス作業にとどまらず、日本企業にとって優れて強み部分とも言えるさまざまなサービス、とくに顧客向けおもてなしサービスに関して、日本は、サービスノウハウそのものをビジネス化して戦略ビジネス、戦略事業にすべきだ、という問題提起を行ってみたい。

海外での「日本おもてなしサービス」高評価などを背景に、
日本の戦略的な強みに

なぜ、こんなことを考えるに至ったか。実は2015年12月のASEAN(東南アジア諸国連合)の地域市場統合化を前にしたアジアでの現場体験がベースだが、新ライフスタイル願望に合致する安全・安心食材の日本食文化への評価が高く、中でも日本の外食企業のおもてなしサービス評価への高まりが1つ、それら東南アジア諸国にとどまらず中国や欧米、中東の人たちが円安・ドル高を背景に観光目的で日本訪問した際、日本のデパートや量販店、ホテル、レストランなどでの顧客対応、サービスの質の高さを評価し、それがそのまま日本評価につながっていること――から、おもてなしサービスを日本の戦略的な強みにして、ソフトパワーという形で、国の内外にアピールすればいいと考えたのだ。

要は、これらのおもてなしサービスに関して、日本はこれまで、とりたてて外部にアピールすべき問題ではない、やって当たり前の話で、付随的な問題だ、サービス自体を定量化出来る話でない、サービスでもうける発想がおかしい、といった形で、積極的に戦略商品化、ビジネス化する発想がなかった。しかし私は、日本が圧倒的な強みを持つモノづくりにからめた品質管理などの強み部分と一緒に、おもてなしサービスも強み部分として、一気に磨きをかけてシステムづくりをめざせば、日本の存在感を強める強力な武器になると考えるのだ。

サービス産業生産性協議会(SPRING)も
「日本サービス大賞」でモデル例発掘

そんな矢先、最近、日本生産性本部がかかわるサービス産業生産性協議会(SPRING)という民間組織のシンポジウムに参加したら、「サービス産業のさらなる発展に向けた『おもてなし産業化』の推進」というテーマで、さまざまなプロジェクト展開しているのを知った。質の良しあしを客観的に評価しづらいサービスに関して、今後、研究対象にして研究者間でサービスの質的評価基準を考えだし、第3次産業と言われるサービス産業の生産性を高めることは極めて重要だ。

SPRINGは2015年度から新たに「日本サービス大賞」を設け、独創的なサービスへの取組み、地域で輝いているサービスなどを選び出して、先行モデル事例にしていく、という。また、別の民間組織も「おもてなし経営企業選」という形で、おもてなしサービスの優れ者企業を選び出す、という。いずれも私が考えていたこととも密接にからむ話だが、こういった動きが具体化しているのを知って、うれしくなった。改めて、日本は捨てたもんじゃない、戦略的な強み、弱みの見極めの中におもてなしサービスをしっかりと位置付けて磨きをかければ、日本は世界のトップランクの評価対象になる、と思った。

JR東日本TESSEIは清掃会社を見事にビジネス化し
「おもてなしサービス会社」に

そこで、本題に入ろう。私は、ジャーナリストの性分として、「7分間新幹線清掃チーム」を現場で実際に見てみたいと思い、このチームを生み出した株式会社JR東日本テクノハートTESSEI(旧鉄道整備株式会社)元専務の矢部輝夫さんにインタビュー取材すると同時に現場見学させてもらった。

すでに数多くのメディアで取り上げられているので、新鮮味がないと思われるかもしれないが、私の問題意識は、少し違う。プロジェクトリーダーの矢部さんが、パートタイマーを中心につくった車両清掃専門の清掃会社のサービスに関して、独自ビジネスモデルをつくって「おもてなしサービス会社」として再生させたこと、パートタイマーを「パートナー」として位置付け、優秀度に応じて社員化も進め、それらの人たちのパワーをもとに清掃事業をおもてなし清掃サービスに切り替えたこと、新幹線に乗る顧客のみならず、多くの人たちから「7分間の限られた時間内に車内を手際よく清掃する姿を外から見ているとまるで新幹線劇場だ」との評価を得るところまで高めビジネス化したことが素晴らしい。

2チーム44人で全長400メートル新幹線車両を
わずか7分間にスマイル絶やさず清掃

親会社JR東日本からの新幹線車両清掃の受託という枠組みが基本のため、新規の需要創出、ビジネスチャンス作りが出来るかどうか難しい面があるのは事実。しか単なる清掃作業に大きな付加価値をつけて、おもてなしサービスという形に変えて顧客満足度を上げたばかりか、顧客の新幹線利用に際してのニーズや注文、さらにはクレーム処理の先端窓口になって、新幹線評価を高める役割を担うようになった意味は大きい。
矢部さんによると、1チーム22人の構成で、合計11チームが早朝から深夜までをカバーする。全長400メートルの長い新幹線車両の車内清掃、それも座席、テーブル、棚、床、窓、さらに共用トイレの清掃のほか、終点で降り立つお客、とくに年配者が重い荷物を持っていたりする場合のサポートもあり、1チームでは無理のため2チーム44人で取り組む、という。

お客のクレームやニーズ、評価を素早く
「エンジェルレポート」にして改善につなげる

ラッシュ時は東北、上越、長野・北陸新幹線の発着が分刻みで多いため、各チームには大きなストレスが加わる。しかし「さわやか」、「あんしん」、「あったか(温かい気持ち)」をキーワードに笑顔を絶やさず、さわやかな身だしなみで対応、清掃後は各車両ごとに整列し、次に乗車する人たちに向けて「どうぞ快適な旅を」と頭を下げるのが基本という。

極め付きは、7分間という限られた時間との勝負。矢部さんによると、JR東海とは別にJR東日本の場合、東京駅の新幹線ホーム2つにピーク時に4分間隔で出入りするため、最大12分間しか停車できない。お客の降車、乗車を合わせて5分間、残る7分間がTESSEIチームの勝負どころとなる。それでも10年前は年間30件ほどあったクレームが、今は4、5件程度。マニュアルだけでなく、お客の声をすばやくレポートにして情報共有し改善や工夫にもつなげる「エンジェル・レポート」などが役立っているという。

私が新幹線清掃の「おもてなしサービス会社」を取り上げたのは、清掃サービスにさまざまな工夫を加え、ビジネス化することによって、今やJR東日本の新幹線ビジネスを側面でサポートするほどの重要なおもてなしサービスとなったことに今後の日本がおもてなしサービスを含めたさまざまなサービスを戦略化する際のヒントになる、ということだ。

「ホスピタリティ」と「おもてなし」サービスに差、
国際基督教大の稲葉さんらが分析

このおもてなしサービスのビジネス化を考えていたら、国際基督教大上級准教授の稲葉祐之さんらが「社会科学ジャーナル」誌に寄稿した「『ホスピタリティ』と『おもてなし』サービスの比較分析」結果が面白い、という友人の勧めで読んでみたら、確かに、なかなか興味深い分析結果が出ている。ぜひ、ご紹介しよう。

それによると、欧米でいうホスピタリティ、日本のおもてなし双方とも、高付加価値を可能にする質の高いサービスの提供と言う点では差はないが、両者のマネージメント戦略の面で、それぞれの背景にある文化や風土などの差で違いがある、という。面白いのは、そこからだ。
ホスピタリティはホテルチェーンのザ・リッツ・カールトンに代表されるもので、顧客満足度を上げてもらうため、いかに宿泊時のサービス面で納得してもらえるかに力点を置いた加点法的な考え方でのサービス提供、しかもお客にわかりやすい演出で「感動」という価値を付け加えるなど、アピールを全面に押し出す。これに対して、おもてなしの代表例が高級な宿屋の能登加賀屋で、逆に減点法的なサービスが特色。要は、加賀屋の場合、もともと高い質のサービス、気の利いたサービスを提供しているという自負があるため、お客にいかに失礼に当たらないようにするか、質を維持することに重点を置いた減点のマネージメントになり、アピールよりも「配慮」が軸になる、という。

日本の顧客志向のサービスシステムに
「おもてなし」文化を加えてシステム化を

ホスピタリティ、おもてなしのサービスの違いにこだわる考えはない。すでに冒頭部分で申し上げたとおり、私のアピールポイントは、日本が圧倒的な強みを持つモノづくりにからめた品質管理などの強み部分と一緒に、おもてなしサービスも強み部分として、一気に磨きをかけてシステムづくりをめざせば、日本の存在感を強める武器になるという点だ。

その点に関連する話として、2014年11月8、9日の両日、NHKスペシャルが「日本式サービスの強さの秘密」というテーマで取り上げた番組にいくつか面白い部分があった。そのうちの1つに、UAE(アラブ首長国連邦)のザイード王子が日本のセブンイレブンのコンビニエンスストアの商品陳列システムに関心を示し、独占契約を結んでUAEにシステム導入した。ザイード王子はその際「日本のコンビニに入ると、手の届くところに顧客ニーズに合った商品が効率的に置いてある。よりよい生活スタイルを追求していく日本文化とうまく融合している。UAEにとって参考になる」と述べ、積極評価したのだ。
コンビニシステムは、日本企業がアジアにすでに積極導入してポピュラーだが、顧客ニーズをうまくつかんでビジネスにする日本のコンビニのサービスシステムに「おもてなし」文化を加えて、もっとビジネス化、システム化したら、日本の評価はもっと高まるのでないか、という感じがする。

アジアでは中国や韓国にない日本のきめの細かさ、
アフターケアサービスなどが評価

しかし私は、アジアの現場で、市場シェアをとるために必死の攻勢をかける中国や韓国の企業の動きを見ていて、あるいは現地の企業の動きなどを見ていて、彼らはモノを売りつけることに関して、すさまじいエネルギーを費やすが、ことサービスのきめ細かさ、売ったあとの欠陥商品の取り換えなどのアフターケア、部品交換などのメインテナンスサービスなどについては、日本企業には逆立ちしてもかなわない、トラック競技に例えれば、日本は数周先を走っている、という強みがある。ここが重要ポイントだ。

今後は、このサービス競争の差で企業評価が変わってくる、と思っており、日本は、このおもてなしサービス、メインテナンスを含めたアフターケアサービスなどのノウハウを事業化するとか、場合によってはブラックボックスに入れてノウハウを見せないといった戦略化するようにすればいいと思っている。いかがだろうか。

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