山形・天童で型破りの和牛肥育経営挑戦 割高輸入飼料を国産化切り替えが面白い


時代刺激人 Vol. 275

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

世の中で、何事に関しても、型破りなチャレンジがイノベーションを生み、新たなビジネスチャンスをつくりだす。そればかりか時代を変えてしまうことがある。

山形県の橋渡しで飼料用米生産者から購入、
ただ難題は依然としてコスト高

矢野さんによると、飼料用米の確保に関しては、山形県内の庄内こめ工房という、専業農家や若手農業後継者ら120人の生産グループが飼料用米を買ってくれるところはないかと販売先を探していたため、山形県庁が矢野さんとの間を橋渡ししてくれた。2014年は飼料用米180㌧を購入し、刈り取ったもみ米を乾燥してから飼料工場に搬入し、加熱プレス加工してエサにするやり方をとった、という。この買い取り分は田んぼの面積にして25ヘクタール分というから中途半端な量ではない。

矢野さんの心配は、肥育する和牛がこれまで食べなれていた輸入配合飼料に代わる国産の飼料用米主体のエサにどういった反応をするか、という点だった。「もみがあるので食べづらいのか、当初は慣れるまで積極的に食べませんでした。そこで、成牛よりもむしろ小さい牛に慣らせることにし食べさせるようにしました。今では成牛も違和感なく食べてくれています」と矢野さんは述べている。

SGSという新飼料生産手法の導入で
やっと先が見えてきた

誰もが関心を持つのは、輸入配合飼料から国産飼料に代替させてコスト削減効果が出たのかどうかだ。矢野さんによると、飼料用米には戦略作物助成金があり、それら助成金を活用すれば割安になる。ただ、コスト的にはまだ高かったので、別の対策も講じた。
やや専門的になるが、その対策はソフト・グレーン・サイレージ(SGS)と言って、生のもみ米を乾燥させずに粉砕、そのあと加水して水分調整し乳酸菌を吹きかけ発酵させ密封、1か月以上寝かせ熟成するやり方を活用した飼料で、生産コストをかなり抑え込め、輸入穀物の配合飼料に比べ割安になった。しかも乳酸発酵させることで、牛の健康にいいオレイン酸が生じて牛の食欲が増したうえ、脂がしつこくなく肉質もいい、という。
和農産は今年4月、国産飼料用米をベースにした国産飼料での和牛生産について、米生産農家の所得向上、食料自給率上昇にもつなげる新ビジネスモデルと考え特許申請した。矢野さんによると、特許をとって、儲けようといったことではなく、自身の経営チャレンジの証明として、意気込みを示すための特許申請だ、という。
矢野さんは「稲作農家もSGS採用だと、もみ米の乾燥やもみすり作業が不要になるので低コストで済むうえ、一定量以上の飼料用米収量があれば、国や自治体から助成金などが出るため稲作農家も収益増につながります。双方がWIN/WINです」と述べている。

国産といっても飼料用米だけでは肉用牛の肥育に課題、
さらにチャレンジ

ただ、矢野さんは「国産飼料100%と言っても、飼料用米をすべて和牛肥育牛のエサに、というところまで現在、至っていません。牛も嗜好性があるうえ、コメの量が多すぎると体重が増えませんし、時に食べ過ぎて下痢することもあるためです。このため、エサは飼料用米に国産の小麦、大麦、大豆など他の飼料も加えたバランスが必要です。このあたりはまだ試行錯誤段階です」と語っている。
それでも、矢野さんは「その後、SGS導入にめどがつき、コストダウンも見込めるようになりましたので、今年産米が出るころには国産飼料用米の比率を50~60%ぐらいまで持っていきたいですね。飼料用米の買い上げも今年は3倍強の600㌧、面積にして85㌶分ぐらいにチャレンジする計画です」と語っている。稲作農家にとっても、主食用のコメ以外に、飼料用としてコメ生産の形で水田活用できればうれしい限りだ。

100%飼料の国産化で安全・安心の和牛生産めざす、
食肉販売にも進出

矢野さんは、生産工程がすべて見えるトレーサビリティ可能な安全・安心の100%国産和牛によって、和牛のブランド化をめざす。「山形牛は、同じ和牛でも浸透力のあるブランド化といった戦略には長けていないため、気持ちばかりが先行しているのが実情です。でも安全・安心の100%国産和牛を強くアピールしていきたいです」という。
このため、矢野さんは、「当然、川下のレストランへの販売だけでなく専門店への出店などで6次産業化にチャレンジしていきます」と語っている。肝心の和牛肉の肉質に関しては、最高ランクのA5、それに続くA4は40%ずつの割合です。肉用牛の生産にこだわる限りは、味のいいものを送り出したいです」と語っている。

工業生産と違って、農業の生産は、工程が実に長く、とくに和牛肥育は25か月から30か月ほどかかる。しかも、飼料用穀物のコメやトウモロコシ、大豆などの生産期間は同じく長い。それらの飼料体系を方針変更ということで、ガラッと変えるのは、工業生産とは大きく違う。壮大なるチャレンジだ。でも、矢野さんの取り組みは型破りだが、日本の畜産経営のシステム改革につながるかもしれない。まだ、試行錯誤の部分もあるが、大いにチャレンジに期待したところだ。

 

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