ユニクロ、楽天の社内公用語の英語化は賛成、いよいよ世界と本気で競争? マネージメントはグローバル対応で必須、しかし日本人社員への義務付け不要


時代刺激人 Vol. 90

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 やっと日本企業もグローバル対応で危機意識が芽生え、世界と本気で競争する気になってきた感じがする。というのは、ユニクロが代名詞のカジュアル衣料品大手ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が最近、毎日新聞とのインタビューで、2012年3月から社内の公用語を英語にする方針を表明したからだ。楽天の三木谷浩史社長は今年5月、社内での英語公用化に向けて朝会という社内の集まりでの英語コミュニケーションに踏み切ったと述べている。カルロス・ゴーン社長が経営トップの日産自動車もすでに英語の公用語化に踏み切っている。グローバル化にエンジンがかかり始めた、といったところだが、これをきっかけに、日本企業には言語コミュニケーションにとどまらず、マネージメント人材に関しても踏み込んだ国際人材の活用を期待したい。

マネージメントは英語でのタフな交渉、素早い経営判断のためにも重要
 私のこの問題に関するポジションは、はっきりしている。日本企業のグローバル化対応という点では、遅きに失したぐらいだと思っている。とくに世界をにらんだ経営に責任を負うマネージメントは、英語を積極的にコミュニケーション手段の1つにすべきだ、と思う。その際、マネージメントは当然、海外でのタフな交渉事に毅然として対応できるように、英語でのコミュニケーション能力を持つことはもとよりだが、取締役会を含めて公的な会議などに関しても、英語で素早く問題の本質を読み取る能力、経営判断を下せる能力を発揮できるようにすべきだ。

ただし、海外の現地法人でのコミュニケーションは現地化対応が必要で、日本人社員といえども英語の公用語化は当然だが、こと日本国内では、すべての日本人社員に英語のコミュニケーションを義務付けたりする必要はない。日本語と英語の併用、つまり社内の公用語はバイリンガルにして、外国人社員がいる場合にのみ、英語でコミュニケーションが出来るようにフレキシブルにすればいい。

ロイター日本法人での編集会議はフレキシブルに英語、日本語で対応
 話のとっかかりとして、私の経験を申し上げよう。第68回の「時代刺戟人」コラムで、日本の新聞社は生き残りを賭けた厳しい競争にさらされるので、部数拡張競争に走るのではなくて、調査報道はじめ、クオリティペーパーに脱皮するチャンスだ、と書いた際、私が毎日新聞からロイター通信に転職した時の経験を書いている。その転職先はロイター通信の日本法人であったため、社内の公用語は英語と日本語だった。

編集局での会議は日本人社員だけの場合、会議をスムーズに、かつスピーディーに進めるため日本語で十分だったが、外国人が1人でも加わっている場合には当然ながら英語でコミュニケーションした。転職当時の私の英語能力は切っ先鋭く議論を闘わすというにはほど遠い状態で、錆びついていた英語のブラッシュアップに必死だった。それでも周囲は外国人が多く、英語で議論する機会も多く、自然に物事の発想の違い、文化の違いを学んだ。
面白かったのは、マカオでアジア各国の編集や取材にかかわる中堅記者の研修に参加した際、サラダ・ボウルという形で、さまざまなテーマに関して議論した時のことだ。ある日、砂漠に航空機が不時着し救援を求めるにはどう対応すべきか、危機管理をめぐる議論ゲームがあった。20キロ離れた村に助けを求めるため、1人の乗客が全員の代表の形で出かける際、3つの道具だけ持っていけるようにする。護身用のナイフや拳銃、延命のための水筒、そして鏡、コンパス、寝袋、防水コートなど数多くの中から何を3つ選ぶか、というものだった。結論は別にして、15人ほどのアジア各国に常駐する多国籍の記者が好き勝手にリスク対応に関して共通言語の英語で意見を述べ合う。いろいろな意見が出て、本当に面白かったが、英語という共通のコミュニケーション手段の重要性を感じた。

ユニクロは英語の公用語化だけでなく給与体系も一元化、新規採用も多国籍化
 冒頭のファーストリテイリングの柳井正会長兼社長はインタビューの中で、日本は人口減少などでいずれ市場規模が頭打ちになり、そのためにも海外出店を加速させていくが、その際、日本の企業が世界企業として生き残るため、英語を社内公用語にすること、さらに幹部社員の給与体系も世界で統一し、店長クラスの海外異動を日常化させること、新入社員採用に関しても2011年度に予定の600人の半数、12年は1000人の3分の2、13年は1500人の4分の3を外国人にする計画だ、と述べている。
数年後にはユニクロのブランドは世界ブランドになるのは間違いない。かつて米国人の子どもたちがエレクトロニクスのソニーは米国企業だと思っていた、という話を聞いて苦笑いしたことがあるが、それと同じで日本企業のグローバル展開が英語の社内公用語化することをきっかけに一気に進む可能性がある、ということだ。

楽天の三木谷社長「日本だけでやっていたら5年はいいが、20年先は暗い」
 楽天の三木谷社長も6月21日号の日経ビジネス誌のインタビューで、かなり大胆に述べている。興味深いので、少し引用させていただこう。「外国人は(社員に)入れないが、うちのつくったものは買えというのは、今後通用しない。世界の人を受け入れていかなくちゃいけない。偉そうかもしれないけれど、楽天という会社が、まずは(手本を)見せてやろうと思っている。そのための社内公用語の英語化だ。いろいろ悩んでいる中で、ふと思った。英語はMUSTだってね」と。
また、こうも述べている。「台湾やタイ、中国、米国、インドネシアと国際展開を始めて、いろんな国に行ってみた。そこに広がる風景は10年前に見た風景じゃない。このスピードこそ、ネットの力だと思った。(中略)楽天市場への出店者に対しても、世界で売れと言っている。日本だけでやっていたら、5年ぐらいはいいかもしれないが、20年先を見たら極めて暗い」とも。

ブログでは「グローバル化はアメリカ化?」「日本語禁止は日本語狩り」の声も
 私も柳井さんや三木谷さんの問題意識に対しては、まったく異存ない。ところがインターネット上のGOO ブログ・ランダムという発言広場で、たまたま楽天の英語公用語化の問題をめぐって賛否両論の意見が出ていた。そのうち、思わず笑ってしまったのは「『グローバル化=英語化』とか、たかが言語で問題が解決すると思うなんて、まさに楽天的」といったものだ。このほか「社内公用語化=英語とは日本語禁止?日本語狩りではありません。日本人の開発メンバー同士でブレーンストーミングやる時は日本語でいいんです。途中でインド人が参入してきたら英語で話せばいい」、さらに「グローバル化がアメリカ化なのかという話は、ここではどうでもよく、むしろ、いま日本は、お尻に火がついているんじゃないの?という感じです。海外市場を重視しないと、日本市場だけじゃ成長に限界があります。その時に、日本語しかしゃべれない人ばかりじゃ優秀な海外人材は入ってこない、という話であって、そこにはアメリカ化の論理は入ってこないと思います」など。ブログはさまざまな意見があって面白い。

経済産業省が最近出した「平成22年版通商白書」では、日本はグローバル化に際して海外の活力を取り込むことが重要とし、「双方向の人の交流の活発化」「高度人材の交流を作り出し活用」を指摘している。

日本企業は社内のさまざまな制度をグローバル化に対応して再設計を
 私は、日本企業は今後、グローバル化への対応に関しては、もっと踏み込んで、たとえば企業自体の社内制度設計を抜本的に変える取組みが必要だと思っている。その点ではユニクロの柳井さんが述べている英語の社内公用語化、給与体系の一元化、さらに新入社員に外国人採用の比率アップにとどまらず、たとえばグローバル展開する企業としては給与体系の一元化に関連する人事評価システム、さらには企業年金、福利厚生などさまざまな社内システムを限りなく、その企業の枠組みでグローバル化に耐えるようにすることだ。

また、三菱商事のようなグローバル展開する大手商社などに言えることだが、これまでのような東京を起点にして日本企業の海外進出、海外ビジネス展開に付随したビジネスを行うのではなく、むしろ今後は、たとえば中国の場合、中国の巨大な国内市場でのビジネス展開を視野に中国現地法人を本格的に立ち上げ、中国人を経営トップに起用して権限もどんどん与える、といった具合だ。役員人事のみならず、さまざまな社内制度の再設計、端的にはグローバル化に対応した制度設計が必要にすべきだ、と申し上げたい。
そんな矢先、日本経済新聞の6月29日付朝刊で、コマツが2012年までに、中国にある主要子会社16社の経営トップ全員を中国人にする方針を決めた、と報じていた。コマツには確認していないが、報道どおりであれば、コマツのグローバル対応に拍手を送りたい。日本中心の、日本だけのマネージメント・システムにこだわっていては、日本は世界市場から取り残されてしまう。

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