時代刺激人 Vol. 175
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
かなりの中小企業の人たちが今、独立系投資顧問会社の許せない行動で、一気に苦しい状況に追い込まれている。そればかりか、それら企業加入の厚生年金基金の破たんリスクが表面化する可能性もあって、年金が受け取れるかどうかも危うい。
かなりの中小企業の人たちが今、独立系投資顧問会社の許せない行動で、一気に苦しい状況に追い込まれている。そればかりか、それら企業加入の厚生年金基金の破たんリスクが表面化する可能性もあって、年金が受け取れるかどうかも危うい。さらに、加入の中小企業自体が損失穴埋め負担に耐え切れず、連鎖倒産に巻き込まれかねない、というのだ。
連日のメディア報道で、ご存じだろう。日経新聞が1月24日付の朝刊でスクープした「年金2000億円が大半消失 AIJ投資顧問『高収益』と虚偽 100超す企業から受託 金融庁が業務停止命令へ」の話だ。いろいろなことが明るみに出てきて、とても看過できない話ばかりなので、今回のコラムで取り上げたい。
「消えた年金」は旧社保庁の年金保険料入力ミスでも発生
「消えた年金」というのは、今回に限ったことでない。われわれの記憶にいまだに鮮明なのは、旧自民党政権末期の2007年に発覚した社会保険庁(当時、以下社保庁、現日本年金機構)での膨大な年金記録の消失がまさにそれだ。あれもひどかった。国民年金など公的年金保険料の納付記録漏れが5000万件も見つかり、その原因が何と担当者の単純な入力ミスなどだったからだ。このずさんな人的管理をしていた旧社保庁に対する国民の怒りが当時、爆発したのは言うまでもない。いまだに解決できず、尾を引いており、旧社保庁は理解しがたい問題官庁だ。
そこで本題だが、今回の最大の元凶はAIJ投資顧問で、大いに問題にすべきであることは間違いない。しかし、その前に、今回の問題の陰で、旧社保庁のOBが関与していたばかりか、彼らが、民間の厚生年金基金に天下った同じ旧社保庁の後輩OBに対しAIJ投資顧問への年金の運用委託を巧みに勧誘して、事態を悪化させたことが判明している。そこで、話の流れとして、まず、こちらから問題を追ってみたい。
AIJは年金基金に影響力行使できる旧社保庁OBと
コンサルティング契約
複数のメディアがタイミングよく、問題の旧社保庁OB関与の話を報じているので、それを引用させていただこう。その報道によると、旧社保庁OBは退官後、よくあるパターンだが、ある厚生年金基金に常務理事で天下りした。そのOBは年金基金の運用にかかわり、ヘッジファンド投資も手掛けた。8年ほどで基金を退任後、在任中に培った投資運用のノウハウを活用するため、コンサルティングビジネスにかかわった。
ここから問題が始まる。AIJ投資顧問(以下AIJ)が見逃さなかった。旧社保庁時代のキャリア、それに厚生年金基金時代の投資運用ノウハウは活用できると判断したのだ。そこでコンサルティング契約を結び、厚生年金基金の豊富な年金資金をAIJへの運用委託するように依頼した。コンサルタントは、同じ旧社保庁の後輩OBが天下った数多くの厚生年金基金に対し、セミナーなどの場を通じてAIJへの運用委託を強力に勧めた。
旧社保庁OBが先輩―後輩関係を活用、
厚生年金基金に運用委託させる
旧社保庁時代からの先輩―後輩の関係は意外に強い。報道によると、天下りポストを得ながらも勉強していなかった後輩OBたちにとっては、この先輩OBの巧みな勧誘に違和感を持たず、巨額の年金基金を躊躇なくAIJに運用委託する手続きをとった、という。
厚生労働省によると、旧社保庁の幹部23人が最近11年間で、さまざまな企業のかかわる厚生年金基金に天下っていた、というから、AIJとコンサルティング契約を結んだ先輩OBにとっては、宝の山同然だったのだろう。
もう1つ、厚生労働省がメディアに明らかにした事実によると、AIJに運用委託していた厚生年金基金は何と54もの数にのぼった、という。これまた驚きだ。何のことはない。「消えた年金」に旧社保庁OBが加担して、コンサルティング報酬を得ていたのだから罪深い話だ。
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