復興予算便乗流用、放置せず早くケリを 政治空白で、行政監視の遅れが心配


時代刺激人 Vol. 203

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

ご記憶だろうか。9月半ばのコラム198回で、私は、遅々として進まない東日本復興現場の現実をレポートした際、9月9日夜に放映されたNHKスペシャル「追跡 復興予算19兆円」が実にタイムリーな調査報道によって復興現場に潜む重大問題を浮き彫りにしている、と激賞した。そのNHK特集が報じたのは、復興予算の便乗流用問題だが、それが何と1か月以上たった今ごろになって、国会で大きな問題になっている。

当時のNHK特集報道によれば、東日本の復興に使われるべき国民の税金19兆円の一部が、復興予算に便乗して全く関係ないプロジェクトに使われ、被災地に届いていないというもので、これを調査報道によって、便乗流用予算問題が浮き彫りになった。他の新聞社や民放テレビ局が事実確認の取材に時間がかかったのか、すぐに反応しなかったが、しばらくしてから各メディアがキャンペーン報道に転じ、事態が動き出し、国全体を揺るがす問題になった。その意味で、メディアが果たす役割は間違いなく大きいものだった。

NHK特集報道がスクープかと思ったら、
実は週刊誌でフリー記者が独自報道
 ところが驚いたことに、このNHK特集報道が、実はスクープではなかったことを最近、知った。東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏がネット上の「現代ビジネス」の「ニュースの深層」欄で、その事実を取り上げているのを見て、「えっ、本当か」と驚いた。私以外に、大半のメディア関係者はたぶん、NHK特集のスクープだと思い込んでいたはずだ。

その「ニュースの深層」では、1か月前の週刊ポスト8月10日号でフリーランス記者の福場ひとみさんがポスト誌編集部と共同取材して記事を書いており、その内容がNHK特集で取り上げられた沖縄の国道の補修工事など数々の流用問題だった、という。NHKが後追い取材だったわけだが、福場さんは長谷川さんのインタビューで、復興予算流用問題に関心を持ち、検索ネットGOOGLEで復興予算がらみの「各目明細書」、つまり「東日本大震災復興特別会計歳出暫定予算予定額各目明細書」という長ったらしい項目へのアクセスに成功し、問題に行き着いたと述べている。こちらが文字どおりの調査報道だ。

政治家はメディア報道であわてて復興便乗予算流用に重い腰上げたのが実態
 問題がやや横道にそれてしまったが、NHK特集報道、追随した各メディア報道によって、政治家たちが反応し始め、国会での問題となったことだけは間違いない。政治家にとっては、当面の大きな彼らのテーマである解散総選挙がらみで、有権者の反応が自身にも跳ね返ってくることを意識してか「これは問題だ」と、国会閉会中の決算員会で取り上げた。これによって、やっと本格的に火がついてきた。大震災で復興が遅々として進まず、現場の関係者の間で苛立ちが増しているというのに、何とも対応が遅かった。この国では、どこか歯車がかみ合わず、物事が動いていないと言わざるを得ない悔しい現実だ。

さて、そんな中で、私は最近、宮城県石巻市や仙台市の大震災の復旧・復興に取り組む現場を見る機会が、1か月ほど前に続いて再度、チャンスがあったので、レポートを交えて、復興現場の課題を今回、もう一度、続報の形で取り上げよう。復興便乗の形で予算要求している霞が関の行政機関の行動には当然、強い反発があったのは言うまでもない。

野田首相の解散明示問題に政治エネルギー費消され、
復興の先送りこそリスク

 その前に、率直に言って、政治家の対応は遅すぎる。平野復興相が国会の決算委員会で、復興問題の担当大臣として、予算担当の財務省に実態調査を求めると同時に、内閣府にある行政刷新会議と連携して、便乗で転用された復興関係予算の検証に乗り出す、と表明した。しかし、現実問題として、臨時国会が召集される10月29日までの間、実にムダな時間の浪費が続いたうえ、国会開会された後も与野党間では、たぶん野田首相の解散時期の明示をめぐる政治的な駆け引きにばかりエネルギーが費消される可能性が強い。

とくに、自民党や公明党の野党側は国会開会冒頭から、復興現場の人たちにはおよそ無縁と言っていい衆議院の解散時期の明示を、最大の政治課題と言って主張するのは目に見えている。これに対して野田首相は、政権としての最大の課題である特例公債法案の審議・採決が先決だとして譲らず、結果的に、話し合い解散に持ち込む事態を回避するのに躍起になるのでないだろうか。

与野党は非常事態と判断し特例公債法成立を優先、
黒白は総選挙で有権者に問え
あげくの果ては、野党側の審議拒否で、結果的に、政治空白が続いてしまう。そればかりか、大きな問題になっている復興予算の便乗転用問題が十分に議論されないうえ、特例公債法案の審議・採決が遅れて、あおりで今年度予算の執行に影響が出て、地方交付税支出が執行されず、被災地復興もどんどん遅れる、といった馬鹿げた事態になりかねない。

そこで、私は申し上げたい。与野党間で、今年度予算にからむ特例公債の中身の問題に関しては、一時的に問題棚上げし、まずは特例公債法案の審議・採決に応じて成立を期す、それによって東日本大震災の復興関係予算、東電原発事故災害対応の予算のうち、最優先で支出せざるを得ない予算の執行を行うことがまずは必要だ。

立法府は今こそ行政監視の役割果たせ、
復興便乗予算チェックの内容公開を
 それと並行して、いま問題になっている復興に便乗した予算の中身を徹底的にチェックし、明らかに筋が通らないものに関しては執行停止なり、予算組み替えを行う、同時に来年予算の概算要求段階で出ている予算に関しても見直しを行う。もし便乗していて不要と思われるものがあれば、予算要求を撤回させる。そして、これらの予算チェック内容を公表することだ。実は、これが必ずあとあとで、大きな意味を持ってくる。

つまり官僚が、もし民主党政権のレームダック状態を見て、目につかないように知らぬ顔で復興予算に便乗して、自分たちの都合のいいように予算要求していたとしたら大問題だ。立法府はこういった時にこそ、行政監視の役割を果たすことが重要になる。政治家が官僚いじめに終始するのではなく、毅然とした姿勢で、官僚はパブリックサーバントであって、役所の省益のために行動するものではない、ということを予算修正で示すのだ。

石巻の漁業関係者「政治家がばらまき予算に道筋、
官僚抑え込めるのか」と指摘
 肝心の東日本の被災現場の復興状況のレポートが遅れてしまった。今回は、宮城県内で被災度が大きい石巻市に行き、いろいろな関係者に会って話を聞く機会があったので、その話を中心に問題や課題を述べよう。このうち、霞が関や政治家に人脈を持つ漁業関係者の1人は、復興便乗予算の問題に関して、与野党の政治家が総選挙を意識して復興予算に抜け道をつくったのだから、官僚の予算づくりを攻め切れるのか、と鋭い指摘をしている。

「民主党政権のみならず政治そのものが、はっきり言って官僚になめられている。とくに民主党政権が復興基本方針づくりに際して自民、公明両党に妥協せざるを得なかった。野田首相が復興につながる日本経済全体の再生、そして次の災害予防につながる防災対策ならばOKと予算化で譲歩することにしたのだ。官僚は、解散総選挙を意識した政治家のばらまき予算への布石を見ているから、『よし、俺たちも巧みに予算を盛り込み、日本再生のために必要な予算措置だと言えばいい』と踏んでいる。政治家は、メディア批判に応えて対応するのだろうが、どこまでやれるのかね」と、意外に冷ややかだった。

立法府は行政監視が必要、
毅然として官僚の悪乗り便乗型予算にけじめを
確かに、この復興便乗予算の流用問題は、議論し始めると、根が深い問題かもしれない。と言うのは、この漁業関係者が指摘する通り、政府の復興基本方針づくりに際して、「大震災を教訓として、全国的に緊急で即効性のある防災、減災などのための施策」を「全国防災対策費」として予算計上することが明記されているからだ。これは自民党、公明党の修正要求を受け入れたものだ。しかも野田首相が復興を支える日本経済の再生につながる予算化にも道を拓いている。このため、官僚が理屈をつけて正当化した場合、それぞれの行政所管の担当大臣はどう対応すればいいか、といった問題になりかねない。

しかし、ここは政治が毅然として、官僚の悪乗り便乗を許さない、という姿勢で臨むべきだ。すでに述べた通り、立法府の行政監視という点を軸に、明らかに便乗と思われる拡大解釈の、いい加減な便乗予算要求に対しては、立法府の政治家が厳しい論理で仕分け、整理をすることが間違いなく大事だ。その漁業関係者は「われわれとしては、復興がらみで優先してほしい予算がいっぱいあるので、バッサリ大胆にやってほしい。問題は、政治家が官僚に負けないようにやってくれるかどうかだ」と手厳しいが、まさに立法府の見識が問われるところだろう。

石巻市で予算確保できても下水道入札で参加事業者少なく復旧進まずのケース
 ところで、被災自治体はどこも復興がらみで予算はいくらでも、それこそノドから手が出るほど欲しいのは間違いない事実だが、石巻市で復興行政に携わる震災復興部次長の堀内賢市さんから、意外な話を聞いた。
要は、予算財源を確保して、下水道復旧工事、とくに地震や津波で切断された下水道管の配管工事の入札をすると、最近は入札参加する事業者が予想外に少なく、落札される回数がめっきり減っている。当初は石巻市内の事業者に限定していたが、現在では入札機会を増やすために県内、さらに県外へと事業者の枠を拡げる入札条件の緩和措置を講じている。それでも、集まりが悪く、下水道工事の復旧がなかなか進まない、というのだ。

堀内さんは「いざ工事をしてみて、入札条件以外の必要工どが見つかった場合、逆に自分たちの負担増になるケースもあり、工事を引き受けるうまみがないとか、さらには資材や人手の確保も十分でないため、工事に入札参加できないというケースもあって、復旧工事が全体的に進まない。予算は確保していても、予期せざる現実で困っている」という。

復興庁が復興交付金査定で完璧な計画書にこだわり被災自治体が身動きとれず
また、別の復興プロジェクト関係者によると、被災自治体として、復興のための交付金申請を復興庁に対して行うが、復興庁は、査定段階でしっかりとした復興計画案がなければ、認めにくいと突き放す。被災自治体側にすれば、まずは復興予算確保が先決であり、完璧とはいかないまでも、それなりの計画の裏付けのある申請を行ったつもりでも、そこのミゾが埋まらずに、肝心の交付金交付が進まない、というのだ。

最近、被災自治体では、こういった事態に対応するため、副市長クラスに霞が関の行政官庁、たとえば財務省、総務省、国土交通省などから人材を得て、中央行政官僚の発想で自治体の復興計画にアドバイスを得ようとするケースが出てきた。復興庁の予算査定パス対策も関係する。宮城県では石巻市や気仙沼市などがそれで、企画力だけでなく永田町や霞が関に人脈ネットワークがある人材を確保することで、狭い自治体の復興計画から抜け出そうと言う動きが出てきたことは、とてもいいことだ。国と県と自治体の間の目詰まりを少しずつながら、なくして復興に弾みをつけることが大事と気がつき始めたのだ。

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