日本は積極平和主義に見合った難民支援を アジアの成熟国家としての真価が問われる!


時代刺激人 Vol. 276

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

きっとご記憶だろう。シリア難民の男の子が今年9月2日、難民の人たちを乗せた船の転覆で泳ぎ切れず、トルコ南部ボドルムの浜辺に痛ましい姿で見つかったことだ。

きっとご記憶だろう。シリア難民の男の子が今年9月2日、難民の人たちを乗せた船の転覆で泳ぎ切れず、トルコ南部ボドルムの浜辺に痛ましい姿で見つかったことだ。その姿がインターネットを通じて世界中に流れたため、多くの人たちに難民問題の冷酷な現実を見せつけると同時に、何とかしなくてはという気持ちにさせた。私も思いは同じだった。

シリア難民問題は他人事でない、EUは分担受け入れ、
米国、豪州も受け入れ表明

それ以来、EU(欧州共同体)でも人道的に難民を放置でない、受け入れざるを得ない、という動きが一気に高まった。それが弾みとなり、シリア難民がさまざまなルートでEUを目指して殺到したが、各地でトラブルが表面化、とくに同じEU内部でハンガリーなど東欧諸国が受け入れ能力の限界や財政負担に耐えかねるなどの理由で拒否反応を示した。その結果、今やEU全体を巻き込む政治、社会問題となっているのはご存じのとおりだ。

そのEUは9月22日の緊急内相理事会で、シリアだけでなく中東、北アフリカなどの国々の人たちから出されている難民申請を協議し、最終的に加盟各国で分担して16万人の受け入れを決めた。チェコ、ハンガリーなど東欧4か国が分担に反対したままだが、EUは必死で異文化・異宗教の難民との共生の道を模索し始めたことだけは事実だ。これらの動きを受け米国や豪州、ブラジルなどがシリア難民の受け入れを表明した。私は、いずれ日本にも問題が飛び火、日本として難民問題を避けて通れなくなるな、と直感した。

積極平和主義は安倍首相方針なのだから、
難民や移民受け入れに柔軟対応を

そこで今回は、実に重いテーマだが、難民、移民の問題をコラムで取り上げてみたい。結論から先に申し上げれば安倍首相が積極平和外交主義を標ぼうしているのだし、私もその方針に異存ないので、日本は、まず難民受け入れにフレキシブル対応することが重要だ。
ただ、受け入れ能力や制度整備に時間が必要で、当面、留学生や技術・技能研修生に門戸を開き、将来、自国再建めどがついたら帰国しリーダーとして活躍しそうな人たちを対象にするのも一案。また、移民受け入れに関して今後の人口減少社会対策にからめ基幹の生産労働を担える人たちとか、日本の発展に貢献してもらえそうな人たちに限ればいい。

そして、難民や移民の受け入れ後の社会システムづくりをめぐって今後、官民挙げて議論を行う必要がある。具体的には外国人が日本にしっかりと定着できるように、かつ日本人とトラブルにならず同化できるようにするにはどんな方策が望ましいか、保険や年金など制度設計は何がポイントかに関して、しっかり議論する時期に来た、と思っている。

外国メディアが安倍首相に冷淡?
「難民受け入れよりも国内問題解決が先」と報道

そんなことを考えていたら、安倍首相が9月30日、国連総会の一般演説で持論の積極平和主義を持ち出し、安全保障理事会メンバー増設改革の動きに合わせ、日本は安保理常任理事国としての貢献をアピールした。その際、シリア、イラク難民支援を拡充し、今年末までに、すでに年初拠出の2億ドル分を含め総額で8.1億ドル(円換算970億円)支援を表明した。難民問題タイミングを考えたタイムリーなメッセージ発信だと思った。

ところが、そのあとの内外メディア会見で問題が生じた。難民への追加の経済的支援に関連して日本が難民自体の受け入れを考えているか、との外国メディアの質問に対し、安倍首相は「日本としての責任を果たしたい」と答えたが、その時に「我々は移民などを受け入れる前に女性や高齢者の活用など打つべき手がある」と答えた。これはまずかった。現に、ロイター通信は「安部首相、シリア難民受け入れよりも国内問題解決が先」、英ガーディアン紙も「日本、シリア難民受け入れ前に国内対応が不可欠」と報じた。外国メディアは、EU、米国、豪州などが難民受け入れ表明しているにもかかわらず、日本のリーダーが自身の積極平和主義と対照的に国内問題重視だと、冷ややかに受け止めてしまった。

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