世界に先駆けアクティブシニア社会を 新成熟社会モデルで存在感アピール


時代刺激人 Vol. 234

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 今回は、日本の高齢社会対応の問題を取り上げてみたい。2014年という新しい年の最初の「時代刺激人」コラムとして、GOODなテーマかどうか悩ましいところがあるが、実は、ちょっとしたきっかけがあって、ぜひ取り上げてみようと思い立った。
しかしこの問題は、率直に言って、日本全体として避けて通れない大きなテーマだ。とくに巨大な人口の塊(かたまり)である団塊の世代が、この高齢者層に加わってきたのをきっかけに、これまでとは違った問題や課題が今後、さまざまな噴出することは間違いないので、しっかりと向き合って考えてみることが必要だ。

「老人」「老世代」という表現よりもアクティブシニア世代と、
プラス思考の位置づけを
 結論から先に申し上げれば、高齢化の「化」がとれた日本の高齢社会問題を考えるにあたって、私は、高齢者層を「老人」「老世代」といった形で、社会の片隅に追いやるのではなく、むしろアクティブ・シニア世代という形で、プラス思考によって位置づけることが必要だ、との考えだ。
その場合、これら世代は、さまざまなことにチャレンジする自助努力が必要なのは言うまでもないが、若い世代の「お荷物」とはならず、むしろ同世代で思いもつかないビジネスにチャレンジするとか、地域社会でユニークな地域貢献活動、体験や技術能力を生かしたボランティア活動に取り組むといった、要は存在感のある生き方をすることが必要だ。

そして政治や行政は、それに対応する新たな制度設計を積極的に考えていく。企業も需要創出チャンスと投資につなげていくことが重要だ。もちろん医療や介護のお世話になる高齢層が多いことも視野に入れた制度設計にするのは当然だが、大事なのは、アクティブ・シニア世代に対応できる社会システムづくりが今後のポイントになる、ということだ。
それによって、日本は、若者層と高齢層が共生してアクティブな社会づくりをめざす先進モデル事例国家だと世界中から評価を受けるようにすればいいのだ。

五木寛之さん「新老人の思想」から
刺激、体力・気力衰えずのアナーキーな新階級?
 さて、前置きが長くなってしまったが、冒頭に申し上げた高齢社会対応を取り上げるきっかけというのは、ある日、新聞を開いたら、出版社の幻冬舎新書の広告に、思わず吸い寄せられてしまったからだ。作家の五木寛之さんの書いた「新老人の思想」という新書に関するものだが、出版社らしく、見出しが次のように、なかなか刺激的なのだ。

「日本は今、とんでもない超・老人大国に突入しようとしている。これからは、かつての老人像とはまったく違う『新老人』の思想が必要だ。それは、未来に不安と絶望を抱きながらも、体力、気力、能力が衰えず、アナーキーな思想を持った『新老人階級』の出現である。彼らにけん引され、日本人は後半生の再考を迫られている」と。

私は、若いころから、五木さんの小説「さらばモスクワ愚連隊」、「蒼ざめた馬を見よ」などを読んでファンだったので、さっそく新書を買って読んでみた。さすがに五木さんも81歳ということもあってか、やや年齢を感じさせる切り口部分もある。しかし興味を持ったのは、「新老人」の部分だ。

肩書志向型、モノ志向型など「新老人」5分類、
定年で強制退場への不満が背景
五木さんは「老人といった場合、今は65歳あたりから老人として扱うのが適当かもしれないが、現実には65歳の人のうち、老人の実感が全くなく老人扱いされることに反抗している人たちが多い。まだ十分に実社会で活動できるつもりでいるのに、強制的に退場させられたと感じている人々だ」と述べ、それらの「新老人」を5つに分類している。五木さんは「冗談半分に区分けした」と言っているが、これがなかなか面白いのだ。

今回のコラムのとっかかりの部分に必要なので、ちょっと引用させていただこう。肩書志向型、モノ志向型、若年志向型、先端技術志向型、そして放浪志向型の5つだ。
このうち肩書志向型は、五木さんによると、60歳を過ぎれば、スーパーエリートは別にして、大多数はふつうの人になるが、一介の個人になりきれない人がいる。「体力もある。弁もたつ。組織を動かすコツも心得ている。社会も、そういう人を放っておく手はない。有能な人ほど、いろんな肩書を押し付けられる」人たちだ。

パソコンやスマホに挑戦し驚嘆の技披露の先端技術志向型、
そして放浪志向型も
 モノ志向型は、ある年齢に達すると、突然、物欲にめざめ、たとえば一眼レフのカメラや時計にこだわる人などだ。若年志向型は、五木さんによれば70歳を過ぎてジーンズをかっこよくはいたりする人だ。「あまりに流行に敏感な老人というのも、なかなか認知されにくいものだが、あくまで時代に合わせて生きようとする人びとだ」という。

残る先端技術志向型は、私の周辺には先端技術に背を向ける人が圧倒的に多いが、五木さんによると、パソコンに挑戦し達人領域に達した人、さらにスマートフォーンを2、3台所持して、驚嘆すべき技を披露して周囲を呆れさせる人で、「願わくば現役時代に、その才能を開花させてほしかった、とみんなから陰口が出る人」だ。
そして放浪志向型は、映画の寅さんを夢見る自由人で、デイバッグを背負って、よく1人で旅をする。60年代、70年代のヒッピー文化に郷愁を抱き続けた世代に多いという。さすが作家らしい分類だなと思って興味深かったが、まだまだ分類が可能だ。

スーパーシニアの日野原先生は75歳以上をシニア、
60~74歳をジュニア扱い
私の冒頭からの問題意識でいくと、五木さんの「新老人」の表現には、やや抵抗があって「新アクティブシニア」の方がいいじゃないかと思った。ところが、100歳を超えていまだ現役の医師で、しかも聖路加病院理事長と同時に財団法人ライフ・プラニングセンター理事長を兼務されるスーパーシニアの日野原重明先生が2000年に創設された「新老人の会」も「新老人」のネーミングだ。既存の「老人」とは違うという意味で「新老人」とされたようだが、この際、新アクティブシニアの会と変えてほしいと思う。

ただ、日野原先生は、発想が面白い。75歳以上をシニアと位置づけ、60歳以上から75歳未満まではジュニアと呼び、これらの人たちを「新老人の会」会員にしている。そして「愛し愛されること」「創(はじ)めること」「耐えること」の3つをモットーに、音楽コーラスや健康情報交換、スポーツなどさまざまなサークル活動を通じて交流を深め、生き生きとした日常生活を送るのが会の活動で、いま、日本国内だけでなく海外にまで支部が広がり、400支部で1万2000人を超す会員組織になった、という。

80歳エベレスト登頂の三浦さんなど数えきれないほど、
日本にはスーパーシニア
 余談だが、政府の「前期高齢者」「後期高齢者」という呼び方も、私自身、不快に思うネーミングだ。いかにも官僚の発想だが、メディアがそれを容認して、安易に報道現場で使うのもおかしな話で、率先して無視すべきだと思っている。
ところで、日野原先生は今もアクティブに活動され、その気力、体力の源泉は何だろうかと思うほどだが、こうしたスーパー・アクティブ・シニアは枚挙にいとまがないほどだ。

80歳でエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんもすごいが、私の周辺でも数えきれいほどおられる。旧住友銀行副頭取から旧住銀リース会長を経て慶応大教授に転出、69歳で大学発ベンチャーのエリーパワーという電力貯蔵用のリチウムイオン電池会社を起業した吉田博一さん、私も参加した東電原発事故調査の国会事故調で、政府や電力事業者から独立して厳しく調査を陣頭指揮された元委員長、かつ元日本学術会議議長の黒川清先生など、70歳超の人たちがずらりといて、いまだに現役でバリバリ活躍されている。

世界に先駆けてアクティブシニアが活性化する
日本社会をアピールするチャンス
 生涯現役の経済ジャーナリストにこだわって、私が現場取材を続けていると、本当に、素晴らしい問題意識と行動力で時代を切り開いていくチャレンジを続けておられるアクティブシニアの人たちに数多く出会う。好奇心の旺盛さ、フットワークのよさを売り物にしていた私でさえ、それらの人たちの問題意識の鋭さ、発想のすごさなどにたじたじとなるほどだ。これらの人たちを見る限り、日本は、シニア層に極めてすごい層の厚みがあると思う。その人たちのネットワーク、問題意識、構想力などを武器に、世界に先駆けて、アクティブシニアを積極活用する社会をつくればいいと、かねがね思っていた。

日本は、冒頭に申し上げたように、高齢化の「化」がとれて、世界最速で高齢社会に突き進み、人口全体に占めるアクティブシニアの比率が急速に高まる。団塊の世代が高齢社会に加わり、この人たちのさまざまな動きが医療や介護の現場のみならず、社会全体の中で大きなインパクトを与える存在となる。プラス面のみならず、逆にマイナスに作用することも多々ありえる。

政治、霞ヶ関行政組織、大企業が成熟社会対応の
システムづくりを先送りしてきた
 問題は、今の社会システムのみならず、政治も経済もあらゆる分野で、団塊の世代の高齢層のみならず、その上の年齢層のシニア世代が大きな社会的存在となった場合に備えてのシステム対応、制度設計になっていないことが最大の問題だ。政治家も、霞ヶ関の行政官僚も、また企業組織も、問題の所在をわかっていても、それへのシステムづくりの対応については、問題先送りしてきたのが偽らざるところだ。

私に言わせれば、今からでも遅くない。五木さんが分類した「新老人」層のみならず、さまざまなアクティブシニアの人たちが、若い世代と共生しながら、独自の活動領域をつくっていけばいい。場合によっては、それが新たなシニアマーケットになって、成長の新たな起爆剤になるビジネスチャンス分野づくりでもいい。その分野に新たな担い手、後継世代が必要になることを考えて、若い世代にも参加を求めてもいい。

今こそ日本は世界の誇る新成熟社会モデルづくりに
取り組め、先進モデル事例を
 大事なことは、アクティブシニア世代が企業組織や大学やさまざまな既存の分野で世代交代を進めて若い人たちにバトンタッチし、同世代のさまざまな仲間と連携して、新ビジネス分野をどんどん創出することだ。以前のコラムで、愛媛県新居浜市のクックチャムという総菜会社の藤田敏子さんというアグレッシブな女性経営者を紹介したが、藤田さんのすごさは人口の半分の女性市場をターゲットに起業して成功した。同じことは、問題意識があって、好奇心旺盛なアクティブシニアにもあり得ることだ。

冒頭にも指摘したように、政治や行政が、アクティブシニアが活動しやすいように、新たな制度設計を積極的に考えていけばいい。企業も需要創出チャンスと投資につなげていけば、事業活動領域も広がる。アクティブシニアが生き生きと活動できるような社会システムづくりをすることだ。こうして、日本が新成熟社会のモデルをつくれば、世界で一足先に高齢社会に向けて歩む日本は素晴らしい先進モデル事例を示してくれたと存在感をアピールできると思う。いかがだろうか。

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