新日鉄の技術流出訴訟に数多くの教訓 技術者退職やリストラ解雇時点で流出覚悟も


時代刺激人 Vol. 182

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 かつて日本企業は欧米、とりわけ米国の背中を見ながら追いつけ、追い越せで必死に産業競争力をつけた。とくに、競争力の源泉ともなる技術に関して、日本の場合、欧米から移入・導入した先進的な基礎技術をいち早く模倣するが、持ち前のモノづくりに関する職人的なこだわりや好奇心で改良工夫をこらし、一気に、実用化に向けた商品化で成功した。
この模倣技術の実用化や商品化という日本の技術導入のやり方が、戦後の大量生産・大量消費時代の流れに乗って、経済の高成長をもたらした。それが米国向け商品輸出を通じて、米国の対日貿易赤字増となって跳ね返ったため、米国との間で一時、技術摩擦を生んだ部分もある。だが、導入技術の実用化自体は、日本モデルと言ってもいいものだった。

中国など新興アジアとの技術摩擦や技術流出トラブルは次第に深刻化

なぜ、こんな話を持ち出したのかなと思われるかもしれない。実は、今回のコラムで、中国など新興アジアの国々が最近、この日本的な「追いつけ・追い越せ」モデルに刺激されて、さまざまなチャレンジ攻勢に出てきたが、その過程で技術摩擦、技術流出の問題が深刻化し始めており、それを取り上げたい、と思ったのだ。

とくに、経済の高成長がマクロ政策課題の中国は、社会主義と市場経済を巧みに使い分けてどん欲に技術導入して国産化に躍起となるが、中には知的財産制度のルールを知っていながら、欧米や日本から導入の先端技術などを、さも自国での独自開発技術と世界中にアピールするため、それが新たな経済・技術摩擦になったりする。中でも、今や中国から追われる立場になった日本がからむ問題も増え、看過できない問題が出てきつつある。

新日鉄訴訟先は韓国最大手ポスコで、OBが不正取得に関与という
複雑事情

そんな矢先、中国とは別に、韓国との間で技術摩擦が訴訟沙汰になった。新日本製鉄が4月25日、今やライバルとなりつつある韓国鉄鋼大手のポスコを相手取って、高性能の方向性電磁鋼板の製造技術を不正に取得したとして、不正競争防止法(営業秘密の不正取得行為)違反で総額1000億円の損害賠償請求を、東京地裁に起こした。しかも、その不正取得が、新日鉄OBを通じて行われたというから、何とも厄介で、複雑なのだ。

複数の新日鉄関係者の話を総合すると、新日鉄はもともと、この方向性電磁鋼板の技術に関しては米国鉄鋼大手、アームコから1950年代に技術導入し、冒頭で申し上げたケースと同様、独自に技術改良を加え、とくに省エネ技術を武器に、製造コストの大幅低下も実現して大量生産化にも成功、いつの間にか新日鉄の強み部分となり、世界市場でシェア30%を握るほどになった、という。

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