アジアの看護師・介護福祉士に市場を 閉鎖的だと日本は相手にされなくなる


時代刺激人 Vol. 180

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 日本の医療や介護の現場では、高齢化の「化」の部分がとれて、高齢者が目立つ高齢社会となる現実下で、それに対応する新たな社会システム、制度設計の構築が必要だと誰もが感じている。

ASEANとの連携重視で受け入れ積極派の外務・経済産業省とは対立

次に、省庁間の問題だ。外務省や経済産業省は、アジア、とくにASEAN(東南アジア諸国連合)との経済連携推進が重要と判断し、厚労省に揺さぶりをかけても、厚労省は国内の医療現場の秩序維持優先といった、頑なな発想から抜け出せないでいる。
これは、ASEANに限らず中国など北東アジア、インドなど南アジアとの間で連携プロジェクトが生じ、その延長線上で、医療や介護の人材交流、人材受け入れ問題が浮上しても同じことが起きる。厚労省の論理は国内政策との整合性、齟齬(そご)をきたさないか、といったことを最優先にする。典型的なガラパゴス症候群現象と言っていい。

経済産業省の友人が「厚労省は、ハードルを上げて、受け入れを故意に拒もうとしているとしか思えない。新たにベトナムからも看護師などの受け入れを準備中だが、フィリピンを含めてアジアの中では純朴な民族なので、医療現場にはぴったりだ。ASEANのニーズがあるのに対応しないでいると、日本が今後、来てほしいと声をかけても見向きされなくなるリスクがある」という。そのとおりだ。

「患者生命が大事な医療現場で会話が通じず異変起きるリスク
避けたい」との論理

今回、いろいろな人たちに話を聞いて驚いたのは厚労省の論理だ。聞きようによっては、もっともらしく聞こえるが、やはり、おかしい。こういう理屈だ。「日本の医療や介護の現場に、日本の国家試験をパスしたアジアの人たちを拒んでいる、といったことはない。ただ、患者の生命を預かる医療の現場で、仮に、日本語コミュニケーションがネックになって、担当医師が来る前に、患者の生命に異変が起きるリスクを恐れる」という。
現に、小宮山厚労相は3月27日の記者会見で、看護師の国家試験の時間を延長するとか改善策を講じるとしながらも、「生命にかかわるので、コミュニケーションがとれないとまずいだろう、という問題もある」と述べている。ここが厚労省の本音部分だ。

まだある。「医療の現場では、専門用語、技術用語が飛び交う。だから、外国人看護師の人たちには、ハードルが高いかもしれないが、その専門用語を理解するレベルに到達してもらわないと、医療現場はコミュニケーションがとれず混乱してしまう。用語を平易にすると、学問の体系に混乱が生じかねない」と、平然と述べる。

厚労省官僚の頑なさはリスクとりたくない、
問題生じたら責任とりたくないだけ?

この頑なさは到底、理解できない。それじゃ、日本人の看護師や介護福祉士は現場で、完璧な対応ができている、と胸を張れるのだろうか。かつて、医療の現場で、現場医師とのトラブルを根に持った看護師などが現場でトラブルや医療事故を引き起こした事例などは、ニュースで見た記憶がある。そういった日本人の看護師たちと、完璧な専門用語を駆使できないにしても、日本の国家試験をパスしたアジアの看護師の人たちを比べてみても、やはりリスクがあるのはアジアからの看護師の人たちだ、というのだろうか。

厚労省幹部らと議論していて、どうも結論的には、リスクをとるとか、新しいことにチャレンジするといったことに関して、前例がないとか、既存の論理と整合性がとれない、といった形でネガティブになっているように見える。だから、グローバル対応、とりわけアジアとの人的交流を通じてアジアからエネルギーを吸収するとか、新興アジアとの連携で日本の医療技術の伝播、交流といった発想が感じられない。要は、新しいことに取り組んで問題を引き起こした時の責任をとりたくない保身の論理だ。

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