時代刺激人 Vol. 180
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
日本の医療や介護の現場では、高齢化の「化」の部分がとれて、高齢者が目立つ高齢社会となる現実下で、それに対応する新たな社会システム、制度設計の構築が必要だと誰もが感じている。
介護福祉士の試験項目も5つの回答から1つ選ぶが、
すごく難解だ
さて、インドネシア人らが日本の国家試験で、どういった苦労をしているのか、実例を見せてもらったが、確かに、とても難解で意地悪な質問項目でないか、という感じがした。
今回からスタートした介護福祉士の試験をお見せしよう。「かゆみを伴うことが通常見られない疾患として、正しいものを1つ選べ」という質問の回答の選択肢は5つで、1.糖尿病 2.心疾患 3.慢性腎不全 4.肝疾患 5.胆道疾患のいずれか1つ。また、次の質問は「広汎(はん)性発達障害の特性として、正しいものを1つ選べ」という質問に対しても、5つの選択肢があるが、これも難解だ。1.親の育て方による障害 2.本人の努力不足による障害 3.その症状が通常成人期以降に発現する障害 4.コミュニケーションの障害 5.廃用症候群による障害のいずれか1つ。
介護福祉士の日本の国家試験受験資格も複雑、
日本語研修もハードルが高い
介護福祉士のケースで言おう。インドネシアとの経済連携協定にもとづき日本での受験資格を得る人の場合、まず、「インドネシアで高等教育機関(3年以上)を卒業し、現地政府から介護士認定を得ていること」、もしくは「インドネシアの看護学校(3年以上)の卒業者」のいずれかで、しかも一定の日本語能力があると認められる者、という条件がつく。
この資格認定を得た人は、訪日前に6か月間の日本語研修を受ける、さらに日本に来てから、さらに6か月間の同じ語学研修を受ける必要がある。ここからがまだ課題が続く。日本国内の介護施設で就労契約によって3年以上の現場研修、技術の習得に努める。これを経て国家試験に合格すれば介護福祉士として就労する。不合格ならば帰国せざるを得ないが、短期滞在が認められ、再受験チャンスもある、という。
合格したインドネシア人
「日本で一生懸命働いたのに幽霊職員の扱いが不満」
介護福祉士の試験に合格、不合格の2人のインドネシア人と特別養護老人ホーム緑風荘の施設長、柴山義明さんらによる記者会見が日本プレスセンターで行われた。私はたまたま、カバーせざるを得ない別の記者会見があり斬園ながら参加できなかったが、友人が、その会見でのメモを克明に記録して送ってくれたので、それを引用させていただこう。
今年30歳のワヒューディンさんは運よく合格した1人だが、日本を選んだ理由について、会見で、こう述べている。「他の国では安く使われるのが現状だが、日本は同一労働同一賃金の制度があるので、ありがたい。インドネシアの小さな病院で看護師として働いた時には毎月6500~7000円の給料だったが、日本に来て、びっくりするくらいの給料をもらえた」「日本は高度の技術を持ち、いろいろなことを学べるからいい」と。
ただ、その半面、日本の制度に対する不満や悩みとしては「3年間、日本で一生懸命に働き、仕事もできるようになったのに、職員として扱われずに幽霊職員と言われていたのが残念。それと介護福祉士の国家試験は外国人には1回しかない。看護師は4回もあるのに、不公平だ」と、ワヒューディンさんは述べている。
外国人受入れ特別養護施設長
「不合格者が帰国後、日本をよくいうはずがない」
日本人の介護現場の声として、柴山さんは会見で「日本は高齢者が増える一方で、介護を支える人が減ってきている。私が面倒を見るインドネシア人らは看護師の資格を得て来日している。彼らは『クウエートにいくか、日本か』で迷いながらも技術を学びたいと、日本に来てくれた。今回の試験で6割以上のインドネシア人不合格者が帰国したら、(まだまだ制度的に問題が多い)日本のことをよく言うはずがない。このままでは韓国や中国に一歩も二歩も遅れる国になってしまう」と述べた。
こうしてみると、日本は本気で高齢社会に対応した新しい社会システム、外国人技能者や技術者とうまく交流できる制度設計が必要だ、と改めて感じるが、いかがだろうか。
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