どうした?立法府の行政府監視機能 衆院原子力問題特別委が問われるぞ


時代刺激人 Vol. 216

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 東京電力福島第1原発の事故現場は、事故から2年以上たった今も、いまだに高濃度の放射能汚染水漏れが起きるかと思えば、ネズミの感電死で30時間に及ぶ停電事故があったりして、事故処理の面で不安定な状況が続いている。4号機の屋上プールから使用済み核燃料を地上プールに下ろす難作業もまだ残っている。この作業中に、最近の淡路島と同規模の大型地震が起きたら高濃度の放射線が大気中に拡散し、新たなリスクに直面する。重い課題が依然、残ったままだ。福島の原発事故は間違いなく、まだ終わっていない。

そんな中で、国会がやっと重い腰を上げた。原子力規制委員会を含めた国の原子力行政を監視するために設置した衆院原子力問題調査特別委員会の初審議を4月8日に行ったのがそれだ。しかし何とも取り組みが遅い。国の内外に日本が今、さまざまな課題を抱え、どれを優先的に行うか、立法府の国会の取り組みは問われるが、原発事故処理、そして他の原発の安全確保への取り組みは依然として最重要課題の1つに変わりがない。

行政府監視は、国会事故調を立ち上げた際の立法府自身の
重要キーメッセージ
 実は、この特別委は、文字どおり特別な意味がある。国会事故調法という超党派の特別議員立法にもとづいて東電原発事故調査に取り組んだ国会事故調(黒川清委員長・当時)が2012年7月5日に報告書を衆参両院議長に提出した際、事故の再発防止のために国会が取り組むべき7つの提言の1つに入っていたもので、それがやっと実行に移された形なのだ。提言から実に9か月、原発事故からは2年1か月ぶりの特別委の初審議だ。

そこで、今回は、私自身が国会事故調にかかわった経緯もあり、この特別委の初審議状況について、少し踏み込んでレポートしながら、立法府の行政府監視機能はいったいどこへ行った?というテーマで、問題提起してみたい。
立法府の行政府監視機能は、あとで詳しく申し上げるが、国会が、東電福島原発事故の原因調査、真相究明にあたって、原子力政策にかかわった政府、それに電力事業者から独立して国民目線で独自に調査すべしと2011年12月に、与野党を含めた超党派の全会一致で国会事故調を立ち上げた際の立法府自身の重要なキーメッセージだったからだ。

特別委は国会事故調の元委員を参考人聴取、
メディアの冷ややか報道には驚き
 特別委は4月8日午前9時半から昼休みをはさみ午後5時過ぎまで行われた。私は衆院TVでメモをとりながら見たが、国会事故調の黒川元委員長はじめ、当時の委員だった石橋克彦氏、崎山比早子氏、櫻井正史氏、田中耕一氏、田中三彦氏、野村修也氏、蜂須賀禮子氏、横山禎徳氏の9氏を招致しての参考人聴取だった。国会事故調が報告書提出に合わせて解散しており、委員も任を解かれ元委員という立場だった。元委員の大島賢三氏は現在、新原子力規制委員会の委員に転出しており、この日の参考人聴取からは除外された。

東電原発事故が風化しかねない中で、やっと衆院特別委で取り組む姿勢が見えたので、政権交代後の国会の原発事故対応に関して、メディアの報道ぶりを期待した。ところが意外に冷ややかな対応には驚いた。私のメディアチェックで見落としがあれば「失礼」となるが、NHKが当日遅くにニュースで取り上げたのと、翌4月9日朝刊で朝日新聞と東京新聞がスペースを割いて取り上げただけ。あとは読売新聞が10行程度のベタ記事、毎日新聞や日経新聞、産経新聞はほとんど無視だった。これには、同じメディアの現場にいるジャーナリストとしては、ニュース判断がおかしいのでないか、と思うものだった。

黒川氏は「原発処理でガバナンス効かす必要。
立法など3権が責任果たせ」と発言
 そこで、コラムを読んでいただいている方々に、簡単な現場レポートで特別委員会の雰囲気をお伝えしよう。まず、特別委の森英介委員長の求めに応じてあいさつした黒川氏は、福島原発現場で事故がまだ収束していないことを指摘すると同時に、「私は、海外でも機会あるごとに、事故原因に関する国会事故調の報告書について説明したが、各国は日本の事故対応に強い関心を持っていた。事故処理に関してガバナンスをどう効かすかが大事だ。立法、行政、司法の3権が互いに独立したプロセスで責任を果たすべきだ」と述べた。

黒川氏は、ストレートな形で厳しく国会批判することは避けたものの、立法府の国会が国権の最高機関を自負するのならば、それに見合った行政府の監視機能を持つことが必要だ、と言おうとしているなと感じ取れた。
この黒川氏の冒頭発言が引き金になったのか、国会事故調委員会主査だった野村氏は「事故処理に関して、国民は、東電と行政府に任せきりになっていることに強い不安を持っている。立法府が国民目線で監視を行うことが求められているのでないか」と述べた。

ノーベル賞受賞の田中氏は
「新幹線などの乗客の監視目線が安全対策に」と名言
このキーワードともいえる立法府の行政監視機能に関して、面白い表現で問題指摘をしたのがノーベル賞受賞者で元委員の田中耕一氏だ。
田中氏によると、東電の原発事故の背景には原発安全神話という形で、科学の世界ではありえない「絶対安全」という考えがまかり通った。しかし新幹線や航空機の分野では、企業は決して安全神話を口にしなかった。なぜか。それは常に乗客の目、監視の目があったからだ。乗客が常に監視しているという、いい意味での緊張感が安全対策にもシビアに生かされていた、という。
この田中氏のメッセージを衆院特別委審議につなげるならば、多分、こういうことだろう。東電の「原発は安全だから大丈夫」という一種の供給先行型の安全神話をうのみにせず監視し、規制を加える役割を果たすべき規制当局の行政が機能していなかったことが国民にとって不幸だった。今後は、立法府が国民の立場に立って行政府の規制対応などの監視を行うことで、原発事故の再発防止にしていくことが大事だ、と。

仮設住宅生活の蜂須賀氏は「国会の原発対応は歯がゆい」と
手厳しい
 このほかに元委員は、それぞれの立場で、国会に対して問題提起したが、立法府が国民目線、もっと言えば被災者目線で事故処理対応を含めて、行政府監視を求めたのが、原発事故後に避難を余儀なくされて福島県会津若松市で仮設住宅住まいを続ける大熊町の町商工会会長の蜂須賀氏の発言だった。

「国会の対応は率直に言って歯がゆい。被災者は不安ばかりで、1つの光が見えたかと思うと黒雲が張り出し、そしてあっという間にまた闇の中に押し込まれる繰り返しだ。事故後も、原発事故現場はトラブルばかり。東電の説明は十分でなく、ただ謝るだけだ。私たちは行政の命令で避難させられたが、国会や政府は事業者の東電の危機管理のなさに対して、厳しく命令を下すべきだ。いまは、正直なところ、心の安心がほしい」と。国会議員にはぐさりと響く言葉ばかりだ。

国会事故調など経緯知るのは自民党塩崎氏のみ、
他委員の「本気度」が見えず
 これらの国会事故調の元委員の発言を受けて、午後からは特別委の委員の質疑に移った。与野党委員は、それなりに事前勉強してきたのか、問題意識を持って審議に参加していたが、結論から先に言えば、委員会の顔ぶれをみると、国会事故調創設に当初から関与して、今回の衆院原子力問題調査特別委にかかわっている特別委・自民党理事の塩崎恭久氏ぐらいで、いわゆる問題山積の東電福島第1原発事故対応を含めて、立法府の行政府監視への「本気度」がまだまだつかめないのだ。

質問トップに立った塩崎氏は冒頭、「この特別委員会の開催がここまで遅くなってしまったことについては、国会としておわび申し上げる」と、参考人招致した国会事故調の元委員に謝った。しかし、国会事故調の黒川氏はじめ元委員にとっては、なかなかすんなりとは受け止めがたい。

国会事故調の7つの提言に対し、
衆参両院の政治対応は本当に遅かった
 冒頭に述べたように、国会事故調が2012年7月5日、衆参両院議長に提出した調査報告書では、原発事故の再発防止のための7つの提言を行った。このうち、新規制委員会などの行政監視のために速やかに衆参両院に常設の特別委員会を設置せよ、とした提言に対して、衆院の特別委が設置されたのは、総選挙を経て政権交代後の2013年1月28日だ。解散総選挙をめぐる政局が長く続き、政治的に対応できなかった、というのが当時の説明だった。しかしその後も開店休業状態で、やっと2か月半ぶりに初審議という、遅れ遅れの対応だった。
問題はそれにとどまらない。参院は未だに特別委さえ設置されていないのだ。現状では7月の参院選後になる可能性さえある。とても原発事故に真正面から向き合う姿勢が感じられない。ましてや、未解明の事故原因を徹底調査するために、第2の国会事故調のような民間の専門家からなる独立の委員会設置をすべきだ、という国会事故調の提案に関しては、ほとんど無反応だ。推して知るべしだ。

塩崎氏の立法府の行政監視論は大賛成、
原発対応でも期待していいの?
塩崎氏が今回の特別委で謝ったのには、「立法府の行政監視のために国会事故調のような民間の専門家による独立の事故調査委員会を憲政史上初めて、ともいえる国会内に創設が必要だ」と、2011年の夏から秋にかけて、盛んにアピールした経緯があるからだ。
とくに、塩崎氏は、自著「『国会原発事故調査委員会』――立法府からの挑戦状」(東京プレスクラブ刊)で、立法府の行政監視に関して、こう述べている。少し引用させていただこう。
「政治的な駆け引きを中心に国会運営を行う『国対政治』を脱却し、改めて国会が本来の立法の府の役割を果たし、政府に対する真の監視役になっていく必要がある。そのためには、国会はバランス感覚などを磨き上げ、自らの専門性や調査能力を高めなければならない。また、組織体としての対応力も一層向上させ、適宜かつ的確に、霞ヶ関のみに頼らずに自らの案を作成できるような体制づくりを行うことが必要だ。同時に、立法や行政監視などに資する調査能力、実行力を飛躍的に強化することも必須だ」と。

政権交代後の自民党や公明党の原子力政策に懸念、
国民の監視目線が大事
 ここまで塩崎氏が発言しているのだから、今回の衆院特別委で、ぜひ、持論を実行に移すのみならず、政権与党の立場で野党をリードして、行政府の監視役と同時に、独自の政策立案、特別立法措置で対応してほしい。期待していいのだろうね、と言いたい。

ただ、正直なところ、私が今、とても心配なことがある。それは、政権交代後の自民党、さらに連立を組む公明党の一部議員の中で、原子力政策に関して、東電原発事故の教訓を生かさないまま、安全基準、規制基準をルーズにする動きが出たりしかねないことだ。
世界中を震撼させた東電原発事故の現実は大きい。世界中が、その事故処理対応に大きな関心を寄せている。あいまいな対応は許されない。ノーベル賞受賞の田中氏が新幹線、航空機の乗客の監視目線と同じように、国民の監視目線は重要で、国民の代表者たる立法府の国会は、その立ち位置だけはしっかりさせる必要がある。

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