ユーロ圏からギリシャ一時隔離も リスク連鎖を断ち切るのが最重要


時代刺激人 Vol. 156

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 グローバル社会のすごさは、世界中のどこかで、金融市場が必ずオープンしていて、金融取引が24時間切れ目なく、そして際限なく、さまざまな形態で行われていることだ。インターネットがそれを加速している。そのスピードはすさまじく速く、瞬時に金融取引が行われる。マネーは貪欲だから、儲かると判断すれば、文字どおり国境を越えて、世界中の至る所で動き回る。抑えようがないが、好循環している限りは問題ない。

ところが、それらのマネーはひとたびリスクがあると感じたら、もともと臆病で、保守的な性格があるので、リスクを最小限にするため、必死に逃げの姿勢に転じる。特定の国に集中していた巨額のマネーがあっという間に資金引き揚げに転じたら、その国は一転して資本不足、外貨不足に陥る。場合によっては、それがリスクの連鎖という形で、世界中に波及し、金融不安を招きかねないことだってあり得る。

ユーロ危機は民間銀行破たんだけでなく国家デフォルト不安だから
厄介
 2008年の米国発の世界金融危機、リーマンショックがその典型だ。しかし、今回のギリシャに端を発したユーロ危機はもっと難しい問題を抱える。リーマンショック時のような金融機関の破たんリスクにとどまらず、国家の債務危機、端的にはギリシャという国家の発行した国債の返済不能となるデフォルト・リスクが現実味を帯びてきているのだ。

このため、そのギリシャ国債を、資金運用の形で抱え込んだドイツやフランスの銀行の損失リスクが一気に巨額に膨れ上がり、金融システムに甚大な影響が出かねない状態に追い込まれた。欧州連合(EU)加盟国の首脳や財務相による会議、欧州中央銀行会議、先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議、果ては新興国を交えた20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)など、会議が踊るように開催され、必死で対策に頭を痛める。

日本が金融システム不安対応で批判された「小出し・遅すぎる」が
再現
 しかし、決定的な事態打開策が見当たらないまま、時間がどんどん過ぎていく。問題の所在はわかっていても、誰もが大きなリスクをとりたくないためだ。その結果、かつて日本が金融システム対応で「対策がいつも小出し、遅すぎる」と欧米諸国から痛烈に批判を受けたことが今、同じような形でユーロ危機対応の現場で起きている。これが、世界中のさまざまな人たちの不安感を増幅し、それが欧州にとどまらず、世界中に拡がる事態になってきているから、まったく厄介だ。

さて、前回までのコラムで、韓国FTAと農業の問題にかかわっているうちに、グローバルな世界では米リーマンショックに続くリスクとも言えるユーロ危機がますます深刻化し、大問題になってきた。そこで、経済ジャーナリストとしても、看過できない問題なので、今回は、このユーロ危機の問題を取り上げてみたい。

証券取引所での問題株の監理ポスト入りと同じ、
改善すれば復帰可能に
 結論から先に申上げれば、私は、いま連鎖のリスクをどこかのタイミングで、断ち切ることが重要だと思っている。端的には、ギリシャを一時的にユーロ圏から切り離すことだ。スペインやポルトガル、イタリアなど、ギリシャと同じ問題を抱える南欧の他の国々へ飛び火し、火の海になって手のつけようがなくなる事態に至らないようにする、早い話が延焼を食い止めるしかない、と思うのだ。

一時的な切り離しと言っても、証券取引所で、上場企業の株価が、企業業績に大きな影響を及ぼす重要情報ながら、未確認のため、思惑もからんで乱高下し投資家に大きなリスクを与える場合、事態解明が行われるまで監理ポストに入れるのと同じだ。株式の上場基準を満たすような事態に戻れば、当然、元に戻される。だから、今回もギリシャを一度、ユーロ圏から切り離し、ギリシャ自身で財政再建や構造改革への真剣な取り組みを行ってもらい、先行きに展望がつくようになったら、またユーロ圏に復帰させればいいのだ。

ギリシャ隔離措置で支援打ち切るか、
旧通貨へ戻れるかで市場混乱も
 と言っても、現実問題として、なかなか厄介な問題が多いことは事実だ。ギリシャがいま抱える国債の償還期限が次々と押し寄せるものに関して、EU、そして国際通貨基金(IMF)が数回にわたって財政再建努力などを条件に、元本と利息分の償還のための巨額の金融支援を行っているが、肝心のギリシャ自身の財政再建は、大幅な歳出カットが景気後退や税収減の悪循環となり、スムーズに進んでいない。
この状況下で、仮に、ギリシャをユーロ圏から一時的に切り離すといった場合、この政策支援をどうするのか、またこれまではユーロ圏のメンバーだったからこそ、他の国々への波及を食い止めるために積極支援してきたが、今後は自助努力を求めるとギリシャを突き放すのか―など、悩ましい問題が山積する。

そればかりでない。ギリシャ自身がユーロ圏から一時的とはいえ、離脱、もっと言えば半ば強制的に一時隔離の形で離脱を強要された場合、ギリシャ政府としては元のギリシャ通貨を再発行し、銀行決済を含めて、市場経済取引などシステムの再設計をしなくてはならない。これに要するエネルギーやコストなどは計り知れない。政治混乱はもとよりだが、金融を含む経済、さらには社会混乱も、まさに予測がつかない。

荒っぽい方策だが、他国への「延焼」阻止が必要、
現実は政治利害からむ
 荒っぽいやり方だと思われるかもしれないが、ギリシャ以外の国々への延焼を防ぐことが、今は何よりも必要だ。ところが、現実問題として、ギリシャ対応でのユーロ圏17カ国の利害が錯そうしての行動を見ていると、あとに続く可能性があるスペインなどのデフォルトリスク、金融機関の経営不安に、とても対応しきれない、と思える。はっきり言って、今の支援の枠組みでは、ギリシャはいろいろな意味で限界があるのだ。

ごく最近の問題で言えば、ユーロ圏17カ国の財政や金融危機に対応するための欧州金融安定基金(EFSF)が、域内の金融機関が抱えるギリシャ国債などの損失リスクのカバーのための資本増強、関連する融資能力拡大など機能強化策も危険な綱渡りだった。17カ国全部の議会同意が必要なのに、政治の利害や与野党確執がからみ、大詰め段階で中欧スロバキア議会がいったん否決し、再度の政治調整でやっと可決する状況だったからだ。

ユーロ圏各国の財政負担増に歯止めがない、常に国債格下げリスクも
 小国スロバキアがなぜ国民負担の犠牲を強いてでもギリシャ支援する必要があるのか、といった反発からだが、この政治の理屈は、スロバキアに限らず最強のドイツにも根強い。今後、スペインなど同じ問題を抱える国への支援で、17カ国の1つの国でも反対行動に出たら、ゲームセットという、リスクを常に抱える。

もっと重要な問題は、ユーロ圏の各国の財政が危機対応で膨大な負担増になっているうえ、財政悪化の歯止めをかける術(すべ)がない。今後、スペインなどに延焼していった場合、さらに財政負担増となり、それ自体が国民の負担増に跳ね返り、しかも景気押し下げ要因ともなっていく。そればかりでない。健全財政だった国でさえ、この際限ないユーロ危機によって、座性負担増のあおりで、常に国債の格下げリスクさえつきまとう。

ギリシャ国債の債務削減率を引き上げるデフォルト管理案は有効か
 そのギリシャ危機対策として、最近、管理型デフォルト案が浮上している、という。要は、ギリシャの国債債務返済が厳しいため、EUが危機を最小限にとどめるため、債務の削減率を当初、ギリシャ向け第2次支援策で21%削減の幅で合意していたが、最近、一気に50~60%まで拡大して、その代わり損失リスクを抱える金融機関への資本注入による自己資本比率増強などで計画的に対応しようというものだ。

返済不能というデフォルトを未然に防ぐために計画的に管理するのは一案だが、ドイツやフランスなどギリシャ国債を大量に保有する金融機関を国内に抱える国々にとっては、財政負担が大きく伴う。その点で有効と言えるか、疑問な面もある。現に、経営破たんを余儀なくされたフランス、ベルギー系の金融大手、デクシアの場合もフタを開けてみれば、事態は深刻だった。ストレステストと呼ばれる財務の健全性検査を受けて、パスしたにもかかわらずだ。デクシアは、ギリシャ国債を大量保有していただけでなく、イタリア、ポルトガル、スペインなどへの国債投資、それに貸付の残高も多く、その残高は中核資本の1.3倍にのぼる額に及んでいたという。ストレステストの信ぴょう性もあるが、財務内容次第では公的資金注入の形で各国政府にしわ寄せが及ぶことを暗示している。

ギリシャ自身が一時的に集中治療室で再生努力するしかない
 最近、欧州の旅から帰国した友人に現地情勢を聞くチャンスがあった。好奇心もあって訪問したギリシャの現状は、首都アテネ1つとっても、政府の緊縮財政策に反対するデモが目立ち、昔のギリシャの栄光などは微塵も感じられない、という。あるギリシャ人は、ユーロ圏の仲間入りしたことで、ギリシャの信用がユーロの信用と同じになったと錯覚、低利での銀行融資も受けられドイツの高級車を買えたりした。しかし借金が膨れ上がることに安易だった。政府も低利で国債を発行し、その借金で増えた財政資金を無駄遣いし、そのツケが今やってきている、と述べていたという。

ギリシャの現地からの報道を見ても、ギリシャ政府と国民の間のミゾは深まるばかりで、EUやIMFからの金融支援の見返り条件の財政再建や構造改革の展望は見えない。そのギリシャのリスクがユーロ圏にとどまらず、冒頭のグローバルの時代のマーケットのように、あっという間にリスクの連鎖が24時間、世界中を駆け巡る事態に歯止めがかからなくなったら、それこそ非常事態で、かつてのリーマンショックの比でなくなる。となれば、いまはまだギリシャでとどまっているユーロ危機を、ギリシャの切り離しによって連鎖のリスクを断ち切るしかないのでないか。その出口シナリオ、スキームをみんなで考えるしかないように思う。
要は、ギリシャ自身が一時的に集中治療室に入って再生への努力をするしかない。改善の道筋が見えれば、またユーロ圏に戻ればいいのだ。大事なのは、くどいようだが、リスク連鎖、それもグローバル連鎖を何としても止めることを真剣に考える時期にきたように思う。ギリシャの一時隔離の考え方は、乱暴な意見かもしれないが、考えてみる必要がある。

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