翼の再生を納得する「フィロソフィ」の中身とは? 元操縦士の挑戦と行き先
日本航空株式会社
代表取締役社長
植木 義晴
ナショナルフラッグキャリアとして、戦後日本の高度経済成長の一端を担ってきた航空会社、日本航空が2010年1月19日に経営破綻した。JALの再建を請け負った、京セラ名誉会長の稲盛和夫は、破綻後わずか2年8カ月というスピードで、東京証券取引所第1部への再上場を成し遂げた。JAL再生のために稲盛が手掛けた改革の2つの柱。それは「意識改革と部門別採算」であるが、驚異のV字回復を成し遂げるに至ったその原動力は、経営幹部から現場のマネージャークラスまでを対象に行われた、リーダー教育だと言われている。その再建の中心で、稲盛イズムを直接受け継ぎ、生まれ変わった日本航空株式会社代表取締役社長植木義晴が目指す新生JALとは、その全容に迫る。
植木辞書を引くと哲学とか理念とか、そういう言葉がもちろん出てくるわけですけれども、決してそんなに難しい意味ではなくて。自分が子供の頃に親であったり、学校の先生から教わった道徳に近いようなものなんですね。決して難しいことが羅列されているわけではなくて、誰にでも分かること。ただ、人がそれぞれ生きていく上で自分それぞれに判断基準を持っているように、この会社で一緒になって同じ夢を追っていくための、判断基準、考え方というものを記したのが、このJALフィロソフィということになります。
蟹瀬それは何か気持ちを1つにするための、マジックみたいな要素というのもあるわけですか。
植木あるかと思いますね。それまで経営破綻になるまではみんな一生懸命頑張っていたんだけれども、それぞれが、それぞれの思う方向でベクトルが合わさってなかったような。それで1つの共通用語が欲しかったんです。そういう意味では1つの共通の考え方、用語としてのこのフィロソフィを持ったことで、全員が1つの方向へ向かっていけるようになりました。
蟹瀬実際にそれを策定するとなると、上から「はい、今日これです」みたいに、人がついてくるわけではないですよね。そのへんのプロセスというのは、相当大変だったと想像するんですけれども。
植木経営破綻したのが1月でして、実は6月から全役員と一部の主要な部長を集めて、50人ほどですけれども、当時の稲盛会長がリーダー勉強会というのされたんですね。
植木これ1カ月の間に18回、大体午後6時から9時、10時までというのを、ほぼ毎日のように続けていた。われわれにその場で「フィロソフィ」であったり経営に関してということを、講義をしてくださったんですね。正直言いまして最初のうちは、半信半疑というところがありました。
今さらこんな道徳的なことをお聞きして、それが何の足しになるんだみたいなところ、それは経営陣のみんながそんな感触をはじめは得たんだと思うんですけれども、やはり稲盛さんの圧倒的な存在力というんですか、それから過去の経営も含めてお話をしてくださる中で、どんどんそれが心の中に染み入ってきた。乾いた砂に雨が降ったときのように、どんどんみんなの心の中に入ってきて。
その1カ月の最後に泊りがけの合宿をしたんですけれども、これで総仕上げという感じで、みんなでこの「フィロソフィ」を大切にしていこうという気持ちができあがりました。稲盛さんもあとでおっしゃっていましたけれども、「これ会社が潰れたからだよな、潰れてないときに僕が来てこの話をしても、恐らく君たちは本気では聞かなかっただろう」と。「でも潰れたことが君たちの、目と耳を呼び起こしたんだよね」ということを、おっしゃっていた。それは全くその通りだと思いました。
蟹瀬しかし2012年に社長に就任された、それまでの稲盛さんの姿が、今おっしゃったように、非常に大きいわけですよね。この方からのバトンを受け継ぐというのは、結構大変なんじゃないかと、継承しなければいけない部分というのも出てくるでしょうしね。
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