大組織病にはまず企業風土の改革を GEは企業文化変革に取り組んで成功


時代刺激人 Vol. 298

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

リスクとりたくない若手に「私が全責任とる」とトップ自ら企業文化変えた点にヒント

 しかし、私が組織問題を抱える日本企業にとってヒントがある、と思ったのは3つ目だ。熊谷さんによると、製造業のサービス化を含めGEにとって重要課題ばかりだが、これらの課題実現には企業文化の変革が必要。長年のモノづくり発想から補修サービスを含めたトータルのソリューションを売る、という大胆な切り替えには全世界共通の行動指針、変革行動に向けたパフォーマンス評価制度づくりが重要だと判断した。このため新しい働き方指針の「FASTWORKS」などのマインドセット対策に取り組んだ、という。

 これだけではわかりにくい。興味深かったのは熊谷さんのGEジャパンでの取り組みだ。「私の周辺で中間管理職を含めた幹部が、事業リスクのある問題を部下の若者に指示する際、『キミにまかせるからしっかりやってくれ』だけでは若者は喜ばない。それどころか若者はリスクをとって問題が生じた場合、責任をとるには負担が大きいと敬遠しかねない。そこで、私は『私が全部、最終責任をとるからな』と意識的に言うようにした。すると、若者たちはそれならばやろうと動き出すようになった」という。リスクに逡巡する若手社員たちを動かすにはトップ自らが責任明示し企業文化を変えるべきだと判断したのだ。

新ソフト開発センターの若手に時代の変化を知り、文化変革を決断したのも面白い

 そのからみで、さらに興味深かった話がある。熊谷さんによると、GEはテクノロジー企業に今後、ソフトウェアが重要になるとビッグデータ時代を見通して米シリコンバレーにソフト開発センターを立ち上げ世界中から2、30代のエンジニア1000人強を集めた。ところが博士号などの肩書を持つ優秀な若者ばかりだが、ポロシャツ、Gパンスタイルで自由気ままな行動をとるので、本社で「これがGEか」と驚きの声が上がった。しかし彼らが新たなGEの担い手たちになる、と企業文化変革に取り組むきっかけにもなったという。熊谷さんが「最後は俺が責任をとるので、がんばれ」に通じるものがありそうだ。

 GEが企業変革にあたって、企業文化を変えることにこだわった点に、私は強い興味を持ち調べたら、GEは過去、変革を戦略・競争上の優位性として利用するため、時代の変化に合わせて、節目の年に何度か、今回のような企業文化の変革に取り組んでいた。

不祥事起こした大企業はおわびに終始、企業の組織、文化改革に踏み込まず残念

 その点からいくと、大組織病を抱える日本の大企業群は、不祥事を引き起こした最近のいくつかの企業事例を見ても、外部の調査委員会の調査報告などをもとに、極めて形式的なおわびに終始し、仮に再発防止策を出しても本当に企業体質を変える大胆な取り組みに踏み出したとは見えない。どちらかと言えば、企業の横並び体質がそのまま出ている。GEとはバックグラウンドが違うにしても、GEのように企業文化の変革に取り組む、という判断に踏み込んで企業の組織風土を大胆に変えることになぜ至らないのかが不思議だ。

 私の見るところ、大組織病を根治できないのは、企業組織に解消すべき問題が数多くあるからだ、と思う。具体的には、年功序列制度がまだ企業社会に根強く残っていて優秀な人材の流動化が進んでいないこと、リスクをとっても、それに報いる、あるいは評価する仕組みになっていないこと、とくにGEジャパンの熊谷さんの経営判断のように「私が最終責任を全部とるからしっかりがんばれよ」と言ってくれれば若手社員は安心して動くが、中堅幹部があいまいな指示をする場合、若手は、ヒラメ志向で上の役員の顔色ばかり見ている中堅幹部が最終責任を自分たちに押し付ける可能性が高く、状況に流して適当な行動をとった方が無難という事なかれに、企業組織自体が陥っているのでないだろうか。

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