時代刺激人 Vol. 306
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
時代変化を見据え「第2の創業」チャレンジを
デジタル革命、AI(人工知能)など時代を変革するファクターが本格的に動き出せば、企業によっては、本業消失のリスクが現実化する恐れもある。現に、米国でプラットフォーマーのアマゾンのEC(電子商取引)の攻勢によって、小売り大手シアーズなど有力企業が相次ぎ経営破たんに追い込まれている。
これらの動きを踏まえ、企業は時代に合わなくなったビジネスモデルを見限って「第2の創業」にチャレンジできるだろうか。率直なところ、どの企業にとっても組織の命運を左右する問題だけに、簡単には踏み出しにくい。
そんな中で、そのチャレンジに成功した富士フィルム、とくに新たなビジネスチャンスを模索する同社先進研究所の現場を最近、見聞する機会があり、学ぶことがとても多かった。それらを参考に問題提起レポートしてみよう。
富士フィルムは当初「本業消失」に強い危機感
デジタルカメラなどの登場で、写真の銀塩フィルムが不要になる、という時代変化のもとで、米イーストマン・コダックと日本の富士フィルムは、互いの企業行動の差によって、対照的な結果になったことはご存知だと思う。
まずコダック。デジタル技術への取り組みで先行していたはずなのに、経営トップがフィルム生産で世界トップシェア企業の自負からか、旧来の銀塩写真フィルムの生産にこだわった。それが時代変化の読み誤りにつながり、結果的に、2012年の経営破たんを招いてしまった。
ところがライバル企業の立場にあった富士フィルムは違った。トップリーダーの危機感が強く、2000年に社長就任した現富士フィルムホールディングス会長の古森重隆さんが本業消失危機、という強い問題意識を持ち、「第2の創業」に向けてチャレンジした。古森さんは自著「魂の経営」(東洋経済新報社刊)で、そのチャレンジ策を盛り込んだ「VISION75」を4年後、内外にアピールするにあたって、社内に対し、次のようなゲキを飛ばした、と書いている。
「トヨタの自動車、新日鉄の鉄がなくなるのと同じ」
「(富士フィルムの)現状をトヨタ(自動車)にたとえれば自動車がなくなるようなものだ。新日鉄にたとえれば鉄がなくなることだ。写真フィルムの需要がどんどんなくなっている今、我々は、まさにそうした(本業消失の)事態に、真正面から対処しなければならない」と。
富士フィルムは、苦闘しながらも「第2の創業」に向けた必死のチャレンジによって化粧品・サプリメント、医薬品、半導体材料などの新規事業を次々に生み出し、写真フィルム企業のイメージをガラッと変えた。見事なものだ。
しかし興味深いのは、リーダーの古森さんが「銀塩写真中心の写真事業を継続し、さらなる写真文化の発展をめざす」考えを貫いたことだ。その結果、写真フィルム事業を深化させると同時に、そのフィルム技術を生かして新規事業の開発に取り組み、レントゲンフィルム、コンピューター用バックアップテープ、液晶用フィルムなどの事業をビジネス化した。
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