中国深セン「山寨」は今や脅威 産業集積で日本企業に揺さぶり


時代刺激人 Vol. 194

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 最近、チャンスがあって、アジア経済研究所の東アジア研究グループ副主任研究員の丁可さんから中国深センの「山寨(さんさい)携帯電話産業」やエレクトロニクス産業集積の最新事情を聞くチャンスがあった。これがなかなか面白い。

模倣の域を越え創造力、技術改良で深化すれば
「山寨革命」になるとの見方も

そこで、阿甘さんは少し踏み込んで、山寨携帯は今や模倣、モノマネの域を越えて、創造力を駆使すると同時に技術改良を加えることで深化を遂げ、革新的で、産業革命の担い手になりつつある。言葉変えれば「山寨革命」現象が起きつつある――という。

阿甘さんは著書で、その点に関してこう述べる。「模倣が山寨の最初の生きる道であったことは十分理解できる。(中略)しかし絶対多数の革新的なものはすべて模倣から始まっている。後発企業は必然的に先行者の模倣をするが、これは世界共通だ。模倣から、さらには盗版、権利侵害は程度の問題であり、度を越さなければだめだとは言えない」という。

言われてみれば日本も明治以降、
欧米の技術の模倣から技術先進国になった?

そう言われてみると、日本も明治以降の長い歴史を振り返れば、似たような歩みを遂げてきており、山寨携帯をいつまでもニセモノと決めつけて、批判できないかもしれない。
というのも、日本が欧米からの先進技術の移入や模倣を経て、モノづくり技術に裏打ちされた独自の改良工夫を加えて自らの技術にした。とくに第2次大戦後の高度成長期には大量生産・大量消費構造の時代背景のもとで、さまざまな家電製品などの消費財の実用化に際して、持ち前の品質管理技術などに磨きをかけて競争力のある製品を生産し、モノづくり日本を世界にアピールしたのは事実だからだ。

ただ、世界の多くの国、とりわけ日本や欧米先進国は中国が後発のメリットを駆使して世界の成長センターの一角を担ってくれることを期待している。その半面、中国自身が、国家社会主義と経済面での市場経済化を巧みに使い分け、国家資金をつぎ込んで世界中の市場からなりふり構わず最新技術や資源を買い求めて高成長を実現したり、最近では人民解放軍の力を背景に海洋権益を強引に主張することなどに関して、反発を受ける部分も目立つ。このあたりの問題克服は、中国自身が国際社会で生きのびていく際の大きな課題だ。

深センは世界最大のコンシューマー・エレクトロニクスの産業集積の場

さて、本題の産業集積でこれまでにない新たな動きがみられる中国深センの最新事情に行こう。丁可さんによると、いま、深センは世界最大のコンシューマー・エレクトロニクス製品関係の産業集積の場となっている。具体的には山寨携帯電話にとどまらず、電子時計、ゲーム機、DVDプレーヤー、セットアップ・ボックス、デジタルフォトフレーム、ブラウン管のみならず薄型テレビ、タブレットPC(パソコン)、カーナビ、家庭用医療機器製品などに関する部品、組み立て加工の製造メーカー、デザインハウスなどの設計、さらに流通業者も部品調達のみならず販売、物流の業者がすべて集積し、巨大な産業センター、市場センターとなっている。その参入企業の数がケタ外れ、という。

丁可さんの話では、話題の携帯電話は出荷台数が4億台以上に及ぶ。中国全土での出荷台数が7億台と言われており、その半分近くを深センで生産、そして出荷している。設計するデザインハウスの数が500社、システムインテグレーターが2000社で、今では中国国内向けというよりも新興アジアの、いわゆるボリュームゾーンの巨大消費市場のニーズに対応するため、さまざまな機種を開発、生産している、という。

携帯電話は多くの言語バージョン生産、
ただ日本語はニセモノ拒むのでつくらず

深センでは携帯電話は野菜を売るように気軽に売りさばく、という。思わず笑ったのは華強北市場というバイヤーなどが集まる市場では、たとえば中国語はもとよりだが、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ベトナム語、タイ語、アラビア語、ヒンドゥ語などのさまざまな言語バージョンに対応する機種の宣伝をしているが、なぜか日本語のものがない。理由は、日本人はニセモノには見向きもせず、日本人向けにつくっても売れないとわかっているので、初めから置いてもいない、という。

このほかにミュージックプレーヤーのMP3に関してはピーク時1500社がああったが、いまでも200社がおり、出荷量は月次ベース1500万台というからすごい。デジタルカメラは年間の出荷台数が2000万台、という。ただ、ことデジカメに関しては日本の光学メーカーなどから部品を輸入調達して組み立てるといった制約があり、強い競争力を持っているわけではない、という。

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