新農業モデルは10次産業化 観光農業で消費者引き込む

平田さん「中山間地域の観光農園形態の農業者にはアイディアが大事」

平田さんは「中山間地域農業で、とくにわれわれのような観光農園形態の農業者にとっては、ビジネスを活性化させるアイディアが大事。とくに、インターネットを活用するビジネスモデルは重要です。ネット上の設計は若い人たちに委ねます」という。
平田観光農園の場合、果樹園の生産物はいっさい市場流通には出さず、すべて観光客が好きにもいで食べる生色（なましょく）用、それにジャムなど加工用に使う。園内で若い人たちが楽しめる料理教室などさまざまなイベント行うほか、散策も自由。熊本のコッコファームと同様、大都会から離れた自然の地でゆっくりと半日、過ごせるような設計なのだ。ネット上のアクセスの数で、その週末の農園訪問者の数が読め、それに合わせたプログラムも準備する、というから、10次産業化の先進モデル事例だ。

滋賀県で近江牛生産、
そして牧場併設レストラン展開の宝牧場も10次産業化へ

最後に、滋賀県の中山間地域で、和牛の近江牛の畜産経営を手掛ける宝牧場の田原善裕さんを取り上げよう。田原さんの場合、近江牛の和牛肉生産だけでなく乳牛の生産から加工、そしてレストラン経営までの6次産業化を進め成功しているが、正直なところ、観光農業も視野に入れた10次産業化への取り組みはこれからなのだ。ただ、取材に行ってみて、すごく意欲的で、見ていて間違いなく成功しそうなので、紹介することにした。

宝牧場は一種の現地主義経営で、消費地のレストランに和牛肉を卸す卸売ビジネスでは中間流通コストが上乗せされ、消費者が割高なものを食べざるを得ない、との発想から、牧場に併設したレストランに観光バスやマイカーで足を運んでもらう代わりに、流通コストを省いた割安価格で新鮮な和牛肉の焼き肉を食べていただこうというンビジネスプランだ。また牧場そばのカフェで、酪農現場で牛からのしぼりたてミルクでつくったソフトクリームなど、生産者の味を満喫するチャンスを、というものだ。

田原さんは遠方からのお客が観光果樹園やミニコンサートで
くつろぐ機会を

私も取材を終えて、レストランで食味したが、値段の安さもさることながら、味のよさが抜群で、田原さんの現場を起点に、牧場経営と同時に、消費者との接点を大事にして、どうすればわざわざ中山間地域まで足を運んでくれたお客に喜んでもらえるか、必死に工夫している点がなかなかの経営者だと思った。そして、田原さんは、中山間地域農業のメリットを最大限生かして、牧場周辺の耕作放棄地を含めて土地を買い、そこへ新たに観光牧場、観光果樹園、ミニコンサートによって観光客の集客を高めようと、計画中だ。
田原さんによると、観光バスやマイカーで年間2万人の人たちが来てくれている、という。その人たちが、レストランで焼き肉などを食べて終わり、というのでは時間の過ごし方としてはもったいない。むしろ、自分たち宝牧場が食事のあとも、ゆっくりと周辺の豊かな自然のもとでくつろいでもらえるようなプログラムを提供することが牧場にまた行こう、というリピートにつながる。そのためにも、観光、自然環境を楽しめる要素を加えて牧場経営に広がりを持たせたいという。

今回紹介した事例はいずれも中山間地域で農業を進める人たちで、豊かな自然のもとで半日、休みの日をくつろいでもらい、自分たちにとってビジネスにつなげたいというものだが、いずれも楽しんで農業経営に取り組んでいるところがすがすがしい感じだった。