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岡山県の県北に広がる山間の町・勝山で行われている「のれんの町づくり」が熱い注目を集めている。
きっかけは昨年7月に開催された「瀬戸内国際芸術祭2010」で、勝山の染織作家・加納容子さん(62)が展開した「のれんプロジェクト」が評判を呼んでいるのだ。
加納➖➖勝山では15年ほど前、たまたま実家の酒屋に草木染めののれんを掛けたことから始まりました。現在では95軒にのれんを掛けさせていただいています。
と加納さん。東京の女子美大を卒業後、ふるさとの勝山に帰って「のれんの町づくり」を始めた経緯を話してくれた。
加納➖➖実家の酒屋ののれんを見て、最初に注文をいただいたのは、地元企業の社長さんでした。事務をされている奥様が玄関に差し込む光が眩しいとおっしゃったことで、私が作ったのれんを会社にかけようと声をかけてくださったのです。
この社長さんは、現在「かつやま町並み保存事業を応援する会」の会長を務める行藤公典(ゆきとうきみのり)さんである。
行藤さんは加納さんが作るのれんが大層気に入り、自分の会社にかけるだけでなく、町中に加納さんののれんを広めようと助成金を申請して実質的な「のれんの町づくり」の陣頭指揮をとっていった。
現在、町中ののれんが加納さんの作品に統一されていることも、行藤さんの“統一感が感じられるのれんの景観づくり”を狙った作戦という。
加納さんのプロデューサー的存在といえるだろう。
加納➖➖私は行藤さんのおかげで様々な店や家ののれんを作らせていただきましたが、ただ作るだけでは意味がないと思いました。なので、それぞれの家や店の心を表すように心がけて、のれんで町の心を表現しようと思ったんです。
加納さんが言うように、勝山ののれんの景観は、それぞれが語り合っているような雰囲気を醸している。
たとえば自慢の愛車を入れるガレージには、車が語りかけるようなのれんがかかり、履物屋ののれんには、客を歓迎する笑顔のような丸い下駄の鼻緒のデザインが施されている。
加納さんが言う“町の心”とは、住む人々の心が集まってこそ表現できるものなのかもしれない。
しかし、博覧会で注目を集めたら、全国から加納さんへの注文が来て、勝山の町づくりに専念することはできなくなるのではないだろうか。
加納➖➖確かに、いろんな地域から町づくりに関する問い合わせや打診をいただきました。でも今はお断りしています。町づくりは、押し付けたり、コピーしたりするものではなく、その町に住む人が無理なく楽しんでこそ成功するものだと確信しているからです。
そして今、加納さんは、自分のまちを盛り上げようと訪れる染織家たちを指導している。勝山で成功したノウハウをそのまま教えるのではなく、「無理なく楽しむ」という“町づくりの心”を伝えているという。
勝山の「のれんの町づくり」は、日本の町づくりの概念を変えていくかもしれない。
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- 公開日 2011.08.05
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