イノベーション都市深圳レポート3 日本の対抗軸はオープン&クローズ


時代刺激人 Vol. 303

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

スタートアップ企業へのアプローチで日本と中国にかなりの差、市場サイズにも差

ところで、今回の深圳のイノベーションへの取り組みを見ていると、日本と中国ではビジネスチャンスありと思えそうなスタートアップ企業へのアプローチで決定的に差がある。たとえば米国シリコンバレーに本拠を置くHAXというベンチャー支援アクセラレーターがイノベーションセンター深圳にも出先拠点を持ち、ネット上でスタートアップをめざす企業を毎年、公募し、中国企業を含め有望企業を深圳に呼び込んでビジネス支援を行う。資金力ある中国などのベンチャーキャピタルがそれに連動する。日本にない枠組みだ。

深圳の場合、それらがスピーディに行われ、製品化されたものが経済成長で消費購買力がついた中間所得層を軸にした14憶人近い中国市場に投入され、市場評価を受ける。ネット通販を含めた電子商取引が活発な中国市場だけに、大化けして爆発的な売れ行きにつながることもあり得る。これに対する日本はどうだろうか。このイノベーションの仕組みがない上に、日本国内の内需先細りで、モノの消費に活発な動きが期待できない1億2000万人の人口規模だと結果が見えている。中国との市場サイズの違いが決定的だ。

東大伊藤准教授「加速都市深圳からイノベーションで学ぶことは多い」

中国深圳のイノベーション動向を丹念に現場ウオッチし「加速都市深圳」という切り口で分析評価されている東大社会学研究所准教授の伊藤亜聖さんは、中国のイノベーションについてはサプライチェーン型、デジタルエコノミー型、社会実装型、科学技術型の4つに類型化できる、という考えだ。その伊藤さんが中国ベンチャー企業の動きをメディアのインタビューに答えて的確に述べておられるので、紹介させていただこう。

「重要なのは、ベンチャー企業の数、そしてその意思決定、投資のスピード感だ。たとえば(自転車の)シェアサイクルは登場してからまだ15か月程度のサービスだが、最初の5か月で40社の競合が生まれ、1年後には半分ぐらいまで淘汰が進み、15か月後に生き残ったのはわずか3社。彼らを資金的にサポートするベンチャーキャピタルのスピード感がすさまじい。中国ではこうしたサイクルを回せば回すほど、時の流れが加速度的に進んでいく。加速都市深圳から学ぶことは多い」と。

「オープン&クローズ戦略」の著者小川さん、「成長センターで産業高度化に貢献も」

最後に、日本企業はオープンイノベーションのチャレンジの場をアジアの成長センター、ASEAN(東南アジア諸国連合10か国)やインドに求めよ、という持論を展開されている富士通OBで、現在、東大政策ビジョン研究センターのシニアリサーチャーの小川紘一さんの話が興味深い。実は、小川さんの著書「オープン&クローズ戦略――日本企業再興の条件・増補改訂版」(翔泳社刊)が鋭い問題提起だったので、ジャーナリストの好奇心から直接、お会いして話をうかがった結果だ。
小川さんは、オープンイノベーション具体化にあたって、オープン&クローズ戦略、つまりクローズドの技術に関しては知財管理で固め、それを武器に他企業とオープンに連携しろ、という立場だ。興味深いのは、著書で「オールジャパンではなく『ジャパンイニシアチブ』へと考え方を切り替え、日本のものづくりも国内で磨くマザー機能と、新興国市場の前線に立つ現地の人々に任せる適地優良品のものづくり機能とに分けること」と書かれている部分だ。

小川さんによると、日本企業は今後、オープン&クローズ戦略をもとにしてアジアの成長センターのような場所に行き、それぞれの国の産業高度化に積極貢献することが重要。要は、オールジャパンの丸ごと輸出、投資による事業進出ではなくて、オープン&クローズを使い分けてニーズの高い製品の生産などで新興国の産業や企業が育つようにする。製品のコア部分ではない、現地化が可能なモジュール生産部分などに関しては、すべてオープンにして現地諸国の自由にゆだねる。コア技術部分だけ、しっかり押さえ、日本でコントロールしていればいい。「新興国市場の前線に立つ現地の人々に任せる適地優良品のものづくり機能」がそれだ。私は納得したが、おわかりいただけただろうか。

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