イノベーション都市深圳レポート3 日本の対抗軸はオープン&クローズ


時代刺激人 Vol. 303

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

強み技術で「ダントツ商品」のコマツ、シリコンバレーにアンテナ張り他企業と連携

日本でもオープン&クローズ戦略に取り組んでいる企業が多いが、私なりに、ぴったり合う2つの先進モデル事例をヒントにしたい。1つは、建設機械大手コマツの事例だ。ライバル企業が追随できない強み技術を生かした機機種開発、サービス展開をグローバルに行い、それを強みに収益力を上げるという「ダントツ経営」がポイントだ。建設機械の位置情報や車両情報をGPS(全地球無線測位システム)やICT(情報通信技術)から得て、それをもとに保守管理から省エネ管理までのサービスを行う建設機械稼働管理システムKOMTRAXを開発した。中国内陸部の開発地域での建設機械の稼働状況をこのシステムですべて把握でき、遠く離れた日本からメインテナンス対応が可能、という優れもののシステムのため、文字どおり「ダントツ商品」となった。

コマツはこれ以外に、無人ダンプトラックなどの独自システムを開発しているほか、シリコンバレーやイスラエルにオープンイノベーションにつながるアンテナを張りヨコ連携している。現に、ドローンを使った測定精度が高い米国スタートアップ企業SKYCATCHと資本提携して新たなダントツ商品を狙っている。間違いなく先進モデル事例だ。

独自エンジンなどで成功のホンダジェット、自前主義を嫌い米国の主戦場で勝負

もう1つは、このコラムで以前、取り上げた自動車メーカーのホンダのグループ子会社ホンダエアクラフトだ。ホンダジェットと呼ばれる7人乗りの小型ビジネスジェットの開発への取り組みに関して、航空宇宙工学専門家でホンダジェットの開発総責任者の藤野道格ホンダエアクラフト社長が中心になって、独自技術による航空機エンジンを開発した。その分野の最大手GEが事業連携を求めてきたのだからすごい話だ。

もっとすごかったのは、そのエンジンを胴体部分ではなく主翼の上に搭載して航空機メーカーを唖然とさせた常識破りのイノベーションだ。世界的に、安全性チェックで厳しい米連邦航空局(FAA)が比較的早く評価を下し、型式認証を与えた。航空機専業の三菱重工業子会社、三菱航空機が開発中の三菱リージョナルジェット(MRJ)が安全性確保の面で課題を残し、いまだに型式認証がとれず「離陸」に至ってないのとは対照的だ。ホンダエアクラフトのすごさは、他の追随を許さないイノベーション技術のすごさだろう。

航空機専門家「ホンダジェットを親会社主導で日本で生産していたら成功せず」

オープン&クローズ戦略の先進モデル事例として、この2社を挙げたのは、いずれもオンリーワンともいえる技術開発、イノベーションチャレンジを行い、その強み部分のクローズドの技術をしっかりと知財特許で固め、それを武器に、外部の企業とオープンに連携し事業領域を広げて行ったことだ。

中でもホンダエアクラフトの取り組みから学ぶヒントは、日本を拠点に、日本仕様の完成品をつくって世界に打って出る、という発想でなく、最初から主戦場の米国に本社機能、工場設備を置き、大胆にボーイングなど他の航空機メーカーと競争したことだ。その際、藤野社長はオープンイノベーションに徹し、ホンダジェットの部材に関しても品質重視ながら、日本産品にこだわらず米国産品にいいものがあればオープン活用した。そればかりでない。藤野社長が主導して、30か国に及ぶ国々の技術者ら1800人を巻き込み、異文化コミュニケーション力を駆使して組織を動かしたダイナミックな指導力も学ぶ点だ。

ある航空機専門家は「ホンダジェットがMRJと同様、日本で、しかも親会社のホンダの主導のもとに開発が行われていたら、今日の成功はなかった。主戦場の米国でオープンイノベーションに取り組んだ藤野社長の判断は特筆すべきものだ」と述べている。

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