中国政治が社会不安に過敏 間違いなく地殻変動の予兆


時代刺激人 Vol. 177

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 中国で最近、起きている政治のさまざまな動きは、ずばり興味津々だ。中国経済を定点観測している中国ウオッチャーの私から見ても、それらの動きは、政治の世界の権力闘争とは違って中国の政治、そして経済や社会の地殻変動につながる動きのように見える。

 中国で最近、起きている政治のさまざまな動きは、ずばり興味津々だ。中国経済を定点観測している中国ウオッチャーの私から見ても、それらの動きは、政治の世界の権力闘争とは違って中国の政治、そして経済や社会の地殻変動につながる動きのように見える。
具体的に言えば、経済の急成長をきっかけに進んできた都市化が引き金となって、巨大な人口移動が進み、都市部と農村部の格差、所得格差などがますます顕在化していることが大いに関係する。社会の底辺にいて、これまで不自由な生活を強いられた地域住民の不満が一気に爆発し、格差是正を求めるデモや暴動が着実に大きな広がりを持ち始めた。社会不安になりつつある。しかも、共産党幹部の汚職や不正蓄財の問題が生じるたびに、それらが住民の不満を増幅させている。

格差拡大や共産党幹部汚職・不正蓄財が引き金、
ネットも情報波及で影響力

以前ならば、中国では共産党の国家権力を行使し、表現が悪いが、さまざまな住民運動やデモを踏み潰し、何もなかったかのように振る舞っていた。ところが、インターネットなどソーシャルネットワークを通じて、あっという間に中国国内のみならず、グローバルに波及する展開となったこのため、北京中央の政治指導部も、社会不安が政治不安につながらないように真正面から取り組まざるを得なくなったのだ。

早い話、中国の政治が社会不安に過敏になり、その不安が拡大しないように、政治指導者が直接、不安の現場に入り、問題解決に取り組み始めている。これは明らかに、地殻変動の予兆と言っていい。そこで、今回のコラムでは、それをレポートしてみたい。

広東省鳥坎(うーかん)村で共産党地方書記の不正が
住民を立ち上がらせる

まず、具体的な事例を申し上げよう。メディアの報道で、ご記憶の方もおられるかもしれないが、中国沿海部の広東省鳥坎(うーかん)村での共産党書記ら指導層の不正への住民の抗議行動をめぐる問題がそれだ。
村の政治リーダーの共産党書記が何と、村民の土地使用権を勝手にリゾート開発業者に売却して蓄財したのだ。これが引き金となって、昨年9月、住民の抗議行動が大規模デモにとどまらず、問題の書記を追い出し、住民による自主選挙で村民委員会という自治組織をつくったのだ。

この動きに危機感を抱いた公安当局が、政治介入してリーダーの1人を逮捕し、結果的に死亡させた。そればかりか、公安当局は、電気やガスなどの供給を止める形で締め付けを図った。日本では考えられないことだが、現代中国では秩序維持という国家目的のために、平然と権力を行使し、それが弾圧に近い形で行われたのだ。ところが、今回は違った。

今秋の共産党大会で指導部入り有力の広東省党書記が
村の直接選挙容認

広東省トップの政治リーダーの共産党書記で、今年秋の共産党大会で指導部入りが有力視される汪洋氏が現場で村民との話し合いに乗り出した。そして、汪洋氏は、その話し合いの中で、不正幹部の追放、公平な村長選挙を約束したのだ。

広東省全体を取り仕切る共産党の党書記が、わざわざ沿海部の特定の、わずか1万3000人ほどの人口の小さな村の騒ぎに乗り込んで、しかも村民の自治への動きに大きな理解を示したこと自体が、これまでにないことだ。裏返せば、この鳥坎村の処理を誤れば、中国全土に問題が飛び火するリスクを察知した結果と言っていい。

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