日本食文化はミラノ万博で世界「市民権」 味のよさOK、課題はガラパゴス体質脱却


時代刺激人 Vol. 278

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

「食」をテーマにしたイタリア・ミラノ万博が10月末に6か月間のイベントに終止符を打ったのはご存じと思うが、日本の食文化は今回、「おいしさ」「おもてなしサービスのよさ」などで高評価を受けEU(欧州共同体)はじめ世界市場へのパスポートといえる「市民権」を事実上、得た。

「食」をテーマにしたイタリア・ミラノ万博が10月末に6か月間のイベントに終止符を打ったのはご存じと思うが、日本の食文化は今回、「おいしさ」「おもてなしサービスのよさ」などで高評価を受けEU(欧州共同体)はじめ世界市場へのパスポートといえる「市民権」を事実上、得た。私がそう言えるのは、7月に万博で各国パビリオンの食文化を見比べるチャンスがあったほか、日本食レストラン7社コンソーシアムによる日本フードコートのプロジェクトにかかわり、外国人の日本食評価を聞いた結果、実感したからだ。

伝統の和食以外に、カレーなど
日本由来でない日本食にも外国人の高い評価

そこで、今回は、ミラノ万博の現場で高評価を受けた日本食をめぐる問題を取り上げよう。興味深いのは、さまざまな日本食が評価を受けたことだ。具体的にはユネスコ(国連教育・科学・文化機関)の無形文化遺産として登録された伝統的な和食だけが評価の対象でなかった。それ以外に、もともと日本由来ではなく輸入メニューとも言えるハンバーガーの「ライスバーガー」やカレー、牛丼、トンカツなどが完全に日本食化していることに関して、外国人の誰もが違和感を持たず、むしろ味のよさで評価してくれたのだ。ラーメンもその範疇に入るが、これら和食以外の日本食が独自の深化を遂げ、本来の和食と融合して日本食文化をつくりだしたことに評価が集まったことの意味は大きかった。

ところが、ミラノ万博の日本フードコートで使用頻度の高かったカツオブシや日本産豚肉が、EUの食品や調理面での安全管理基準HACCPに抵触したため、「ミラノ万博特区」だけでしか使用が認められなかった。これは今後の日本食文化の世界展開、とくにEUでの市場展開の課題だ、というのがレポートのポイントだ。

EU安全管理基準HACCPをクリアしておらず、
世界共通ルールに合わせる必要

結論から先に言おう。日本食文化は、「おいしい」「おもてなしサービスがいい」といった「強み」部分に加えて、スシやラーメンを中心に、世界各地でブームを通り越して代表的な食文化という形で定着してきたが、今回、世界中からさまざまな国が参加したミラノ万博で、そのことが改めて確認され世界での事実上の「市民権」を得た、と言っていい。

しかし、問題は、日本食の現場が「安全・安心の食材使用や調理手法」、「コールドチェーンなどを活用した万全の品質管理」を自負してきたにもかかわらず、現実にはEUのHACCPルールを完全にクリアできていない、として結果的に「ミラノ万博特区」での使用制限を受け、日本フードコートに参加した外食企業は不自由さを強いられた。要は、日本の独自の安全基準は完璧で問題なし、としていたが、それは「ガラパゴス的な日本食文化」にとどまっており、世界には通用しなかったことだ。日本の食品安全衛生当局にとっても強烈な教訓だ。そればかりでない。今後、日本の外食産業、農林業などが世界市場で日本食文化を強くアピールして市場展開、輸出展開する場合、安全管理や品質管理の面で世界共通ルールに合わせる必要があることを学んだ、ということだ。

ミラノ万博日本館はピーク時に9時間待ち、
連動して日本食フードコートも大人気

さて、まずは、日本食文化が高評価を受けたことからレポートしよう。私が7月にミラノ万博会場の現場で見た日本館への入場は約1時間待ちだった。ところが、8月のサマータイムに入って以降、5時間待ちがざらになり、10月に入ると、驚くことに、行列の最後尾は何と9時間待ちとなった、という。これはビッグサプライズだ。
ミラノ万博日本館の政府関係者は当初、入場者数に関して140万人を見込んでいたが、この日本館人気で、9月中旬には150万人を超え、さらに10月の閉幕少し前の10月下旬に何と200万人を突破した、という。これに伴い日本食レストラン1店&日本フードコートのレストラン4店の売上高も、当初予想を大きく上回る成果をあげた。

日本フードサービス協会(JF)関係者によると、売上目標は当初、1日あたり2万3000ユーロ(円換算300万円)を見込んでいた。ところが日本館への入場客がうなぎ上りに増えたのに比例して隣接する日本フードコートの売上高も急上昇、10月10日には連日4万ユーロを超す勢いとなった。日本円換算で520万円だった計算になる。
出店した企業は、日本食レストランが和食の美濃吉、また日本フードコートはそばなど麺類のサガミチェーン、カレー&トンカツの壱番屋が万博開催期間中の6か月をフル操業、そしてすき焼の柿安、人形町今半、ライスバーガーのモスフードサービス、スシの京樽がそれぞれ2社ずつペアを組み、3か月交代で出店した。

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