ギリシャは砂上の楼閣の恐れ 緊縮財政にどこまで耐える?


時代刺激人 Vol. 188

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

 すでにメディア報道でご存じのとおり、経済が危機的状況にあるギリシャは、金融支援の見返りに厳しい財政緊縮策を求める欧州共同体(EU)の要求を受け入れてユーロ圏にとどまる、という道を選んだ。

 すでにメディア報道でご存じのとおり、経済が危機的状況にあるギリシャは、金融支援の見返りに厳しい財政緊縮策を求める欧州共同体(EU)の要求を受け入れてユーロ圏にとどまる、という道を選んだ。議会の再選挙の結果、緊縮財政容認派の新民主主義党(ND)が反対派の急進左派連合を僅差で破って、とりあえずは危機乗り切りを図れたからだ。
世界中というと、オーバーかもしれないが、EU各国のみならず、米国や日本、新興アジアなどの政府や中央銀行、それに金融市場関係者が、ギリシャ議会の再選挙結果について、間違いなく固唾をのんで見守ったはずだ。時代刺激人ジャーナリストの私も同じだ。欧州との時差の関係で、日本時間の未明にあたる時間だったが、ギリシャのユーロ圏残留確実、というニュースをネット上で見たときは、経済や金融市場が大混乱せずに済んでよかったな、と思わず感じた。たぶん、多くの人が同じように胸をなでおろしたことだろう。

「ユーロ圏にとどまるも地獄、離脱も地獄」だったギリシャ、
際限なく続くリスク

欧州の小国ギリシャの、それも議会の再選挙の動向が、これほどまでに関心事となったのは言うまでもなく、「ユーロ圏にとどまるも地獄、離脱も地獄」というがけっぷちのギリシャがどちらに向かうのか見極めたい、という気持ちが多くの人にあったからだ。

結論から先に申し上げよう。ギリシャがユーロ圏にとどまったことによって、「ギリシャの次に危ないのはスペインか、イタリアか」といった形で獲物を探す金融ハイエナたちの餌食になりかねない陰惨な金融市場に陥るリスクに歯止めをかけることが出来た。これ自体は一安心だ。しかしギリシャの政治、経済、そして社会の現状を見ていると、砂上の楼閣と言っていい。ちょっとしたほころびをきっかけに、砂がどんどん動き、あっという間に砂の上に立つギリシャ経済の崩れ去るリスクが依然として潜んでいる。

グローバル・マーケット・スピード時代の連鎖リスクこわい、
ギリシャは必死で再建を

そればかりでない。今のようなグローバル、マーケット、スピードのキーワードでくくれる時代のもとでは、連鎖のリスクがもっとこわい。ギリシャのリスクがあっという間に世界中に伝播しかねないからだ。

それを防ぐためにも、まずはギリシャに自助努力を求め、赤字たれ流しのルーズなマクロ経済政策運営に歯止めをかけるべく現在の財政緊縮策をギリシャ国民に我慢し続けてもらうことだ。同時に、EU全体で経済や金融のシステム破たんを回避するためのセーフティネットの枠組みを確立することも、さらに重要だ。

ユーロ圏システム破たん回避の制度、
利害錯そうの当事者多すぎて決められず

ところが、コトは簡単でない。ギリシャ自体の話はあとで述べるが、後者のセーフティネットの制度再設計に関しては、利害が錯そうする当事者の国々が多すぎること、強烈な指導力を発揮できる政治指導者がいないことが影響して、砂に代わる岩盤づくりが難しい。中でもユーロ経済圏で過去に、さまざまなメリットを得てきたドイツが利益還元という形で指導力を発揮すべきなのに、「なぜ、自助努力を怠るギリシャなど南欧の国々の下支えが必要なのか」と反発する国内世論を、政治指導者が抑えきれないでいるのだ。

ユーロ圏にとどまる選択をしたギリシャの話に戻そう。現場取材にこだわる私にとって、ぜひ、ギリシャの現場に行ってみたいのだが、今回は、それが叶わず、日本の特派員や欧州メディアの記事を情報源にさせていただいた。出色だったのは毎日新聞の伊藤智永記者のアテネからの特派員レポートだった。伊藤記者は、私がかつて毎日新聞経済部にいた際、政治部記者として活躍していて、問題意識旺盛で、取材力があるなと思っていた。

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