時代刺激人 Vol. 298
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
正規・非正規社員の二重構造や使い捨てに陥りがちの人材派遣制度の抜本手直しを
さらに、正規社員と非正規社員の二重構造を作り出していることも、一段と組織問題化しつつある。そうしたカベをつくって差別状態を作り出している上に、非正規社員がそれなりの活躍をしても「使い捨て」のような形で切り捨てられかねないこと、とくに人材派遣制度で企業に送り込まれた人たちも正規社員とは別扱いの処遇・待遇のため、派遣先の企業への忠誠心などが生まれないことだ。これも企業組織の活力を喪失させている。早い話が、大企業を中心に経営サイドが、コスト優先で人材の切り捨てを行ってきた結果、それらが製品の品質、あるいは企業自体の品質が問われる事態になってきたとも言える。
米IBMなどでの技術経営経験を踏まえコンサルティング企業UWiNを経営する中根滋社長は鋭い指摘をされている。「人を大切にすることだ。従順で盲従する人ではなく、才能があり、夢があり、かつ革新や世界を語れる積極的な人を。もう過去の栄光『神戸製鋼、東芝』を創ったような人たちには日本の明日は創れない。私は、JAPAN AS NO.1の時代は終わったと思っている。挑戦すべきは、JAPANESE AS NO.1というゴールだ」と。
久保利弁護士はバブル経済の後遺症を指摘、「この30年で企業倫理が緩む」
企業ガバナンス問題の論客、久保利英明弁護士が最近、あるメディアインタビューで、大企業不祥事問題に鋭い発言をされている。ポイント部分なので紹介させていただこう。
「30年前のバブル経済が原因だ。当時は、土地を転がせばもうかった。大蔵省(現・財務省)の役人も接待漬けになっていた。額に汗して働けと言われても、給料は上がらないし面白くない。ちょっとぐらい手抜きしたっていいんじゃないの、という風潮が生まれた。企業内の倫理はだんだん緩み、勤勉さや律義さ、矜持が、この30年で失われた」
さらに「昔は、一生懸命いいモノづくりをすれば、顧客が喜んでくれる、消費者がハッピーになる、これがいい会社だと、みんなが思っていた。それが行き詰まり、みんなが緩んだ。ピリッとしていた現場が、ルーズになってしまった。本当は品質基準に合っていないのに、代金はちゃんと入ってくる、これは楽でいいじゃないかという風潮がメインストリームになると、とても現場で(反発の)声は上がらない」
日本の製造業企業を中心に大企業、中堅企業は、時代の変化を鋭敏に嗅ぎ取って、大胆な組織改革、企業風土の改革、さらには企業文化の改革に取り組まないと、日本の製造業が強みに、あるいは誇りにしていた製品安全とか、高品質などはメッキがはげたようなものになるリスクがある。下手をすると、新興国が後発のメリットを生かして、デジタルでコモディティ(汎用品)化した製品群でシェアを奪う、という事態も十分に想定される。
真田愛知淑徳大教授は中国モノづくり技術向上で日本が比較競争優位喪失を懸念
私の長年の友人で数々の現場を歩いて、自身で「草の根の辻説法師をめざす」と公言している愛知淑徳大学教授の真田幸光さんが、私の危惧する中国など新興国の追い上げに関して、日本と中国の製造業の比較レポートで取り上げておられるので、ご紹介しよう。
レポートの結論を先に申し上げれば、中国モノづくり技術の実力は上がってきた。日本が、日本のモノづくり技術はまだまだ先進的で、比較競争優位を持っている、と思っていると足を踏み外すリスクが出てきた、という。競争優位の喪失を懸念されているのだ。
政治外交関係などを背景にした好き嫌い、良いか悪いかなどに関係なく、客観的に見れば中国本土のモノづくり技術は間違いなく上がってきており、日本としては中国を侮ってはいけない、ということだ。私がそれを強く感じる理由の1つは、中国のモノづくり企業が顧客の視点に立って製品の商用化開発を進めている点だ」という。
真田さんによると、中国企業は日本を含む世界の顧客に製品納入する際、最初の製品での顧客のクレームや不満を受けて自主的に改良品をつくり、それを納入する改善努力を実践し始めている。さらに、納入した製品のどこかに故障が出ると、すぐに出張してきて修理、次の改良品へのヒントとして商品開発するケースも見受けられる、という。
日本の製造業が、かつて米国など先進国市場を意識して追いつき追い越せ精神でチャレンジした時と同じ光景だ。日本は今こそ大組織病対策に手をつける時期だと実感する。
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