中国イノベーション都市深圳で数々サプライズ 日本が忘れていた成長への執着心などが随所に


時代刺激人 Vol. 301

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

日本がデフレ脱却もできず低空飛行を続ける中で、深圳の勢いに学ぶことは多い

深圳の現状は、ここまで述べたとおりで、私が現場を歩いても、間違いなく勢いがある。それに比べて、冒頭に述べたとおり、日本がデフレの長いトンネルを手探りで歩いているうちに、いつのまにか内向き、下向き、後ろ向きになってしまい、経済成長への執着心、ハングリー精神、イノベーションへのどん欲なまでの好奇心がどこかに行ってしまったと思わざるを得ない現実がある。しかもデフレ脱却ができずに低空飛行を続けているのだから、何ともいら立ちを隠しきれない。
話が少し横道にそれてしまうが、早大政経学部・深川由紀子教授に数年前にお会いした際のことを思い出す。深川教授は「私のゼミの20歳の学生たちを見ていて、なぜ経済成長への執着心がなくなったのかと考えたら、彼らは生まれた時から日本経済がデフレ下にあり、ゼロ成長かマイナス成長が当たり前。執着心を議論する前に、彼らには高成長時代の経験がないので、その彼らを問題視することはできない、と思った。要は、デフレ経済を長く放置した政治家や企業の責任が大きいことにハッと気が付いた」という。

その点でいくと、中国・深圳は改革開放の洗礼を受けて、漁村から一気に経済特区として輸出加工区に踏み出し、その後、リーマンショックなどの厳しい時代を乗り越えて、現在の先端的なイノベーション都市に踏み出しているのは素晴らしい。日本がデフレ脱却できないまま、いまだに課題を背負うのとは対照的に、経済成長に対する執着心を持ち、そのためにさまざまなチャレンジに取り組んでいるのだから、日本としても学ぶところは多い、と言わざるを得ない。

深圳企業にはまだいくつか課題、ネット通販などはすごいが、先端技術で日米依存も

では、深圳はすべて問題なしで、順風満帆の動きかといえば、もちろん、そうではない。アジア経済研究所の中国人研究者の丁可さんは、ここまで述べてきた深圳のハイテクイノベーションの動き、とくにハイテクベンチャー企業が起業後、ユニコーン企業に大化けしていく動き、あるいは先行するIT企業のTENCENT、HUAWEIなどの巨大企業がいまだスタートアップ段階の企業に積極的に人材派遣、場合によっては技術支援、資金支援といったアクセラレーター的な支援を行い、最後はM&Aで自らの傘下に収めてさらに肥大化していく動きが深圳を変えつつある、と指摘している。
しかし、その一方で、丁可さんは、「ネット通販などインターネットにもとづいたビジネスモデルのイノベーションが主流で、コア技術やキーコンポーネントに関しては、先進国企業、とくに日米企業の先端技術への依存状況は変わっていない。基礎研究は精華大学などで急速に進展し、今後、企業との産学連携で企業成長に活かせるものも出てくるかもしれないが、大学の現場の研究もまだ先進国の研究を追随するところが多く課題も多い。産学連携もまだまだ不十分だ」と述べている。

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