受託分析、故障解析、信頼性評価から研究開発など、技術者が存分に力を発揮できる職場環境に迫る。

受託分析、故障解析、信頼性評価から研究開発など、技術者が存分に力を発揮できる職場環境に迫る。

 

信頼性試験センター
信頼性第2課
小柴 悠資
分析・故障解析事業部
第1課
細木 志穂
研究開発部
表面処理技術研究チーム リーダー
大矢 怜史

 

信頼性試験センター 信頼性第2課 小柴 悠資

次世代自動車産業を信頼性試験でサポート。試験方法の創造、試験装置の開発から挑戦。

企業の成長を支えるのは優れた人材。躍進を続ける企業には、人が育つ環境がある。若手社員の声から、その秘訣を探る「成長企業の法則」。分析、故障解析、信頼性試験から再現実験、研究開発などを手がける株式会社クオルテックで働く、信頼性試験センター 信頼性第2課の小柴 悠資さんに聞いた。

パワーデバイスの耐久性など信頼性を試験
あらゆる製品の開発や製造に必要な信頼性試験。
その中でもパワーデバイスを中心にした試験に携わるのが小柴さんだ。
「信頼性試験とは、必要とされる耐久性が十分にあるか、万が一、何か起こったときにどこが原因なのか、弱いのかを調べる試験です。私は半導体のパワーデバイスを担当しています。半導体はさまざまなところで使われていますが、パワーデバイスは人体に例えると筋肉に相当する部分です。動作させる際の電力をオン/オフさせるコントロール部分に使われるデバイスです」
その試験方法は、さまざまだという。
「例えば、大電流を流したり、温度のストレスをかけたり、温湿度をかけたり、高い電圧をかけるなどの負荷を与えて試験します」
デバイスがどこまで耐えられるかを明らかにする限界試験では、3カ月から半年以上かかるケースもあるという。

半導体の知識を生かし、パワーデバイスの信頼性試験に取り組んでいる

試験結果がよりよい製品につながる
「パワーサイクル試験は、それほど長い歴史はありませんが、重要性の増している新しい分野です。まだ規格もはっきりと定まらない領域をお客様とともに、切り拓いていく喜びがあります」
なかには、信頼性試験を行うための測定器づくりからはじめるケースもある。
「当社は分析用のサンプル加工や分析、試験といった一連の流れをサポートしています。試験だけをして終わるのではなく、試験結果がお客さまの設計改善のためのデータに変わり、より優れた製品づくりにつながることを実感できます」
どのように試験したらよいか悩み、ともに考え出した方法が高く評価され、依頼した企業の社内規格として認定されたこともあるという。
「試験そのものだけでなく、お客様とコミュニケーションを取りながら、試験の条件を決めていくことも大きな仕事です」

信頼性試験を通じて、新たな製品の誕生に関われることが、小柴さんの大きな誇りだ。
「就職活動をはじめるまでは、こうした業界があることも知りませんでした。大学で学んだ半導体研究の知識を役立てる仕事として選びました。世の中の製品はこれだけ多くの、多角的な試験を経てできあがるのだと知りました」

多くの知識を身につけ幅広い提案を目指す
小柴さんに5年後の自分を想像してもらった。
「試験の提案だけでなく、分析など広い範囲で提案できる人材になりたいと考えています。社内にはたくさんの『先生』がいます。より多くの知識を身につけ、成長していきたいです」
この領域は、未来のクルマとして期待を集める電気自動車の確立などにも関わる、今後が期待される分野だ。高い信頼性を持つ製品を創造し、社会に送り出すためにチャレンジは続いていく。

N’2020 Planの約7割を達成し新たにN’2030 Planを策定 模範になる経営モデルの構築を進める

日本、アジア、そして世界へ展開するビジネスリーダーにその戦略と決断を伺う「賢者の選択」は、今年10月に放送開始15年目に踏み出しました。各界を代表するリーダーの総出演者数は延べ600人を超えます。番組にご登場いただいた賢者はその後、どのような道程を歩み、現在を迎えているのでしょうか。その軌跡と、未来への思いを伺いました。
(学校法人二松學舍 理事長 水戸英則氏:賢者の選択ご出演 2012年7月放送)

AI、ロボット、IoT、ビッグデータなど教育環境に新たな変革
規制強化と緩和が大きく影響するこれからの大学経営とは

番組放送から6年の間に大学教育を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
その要因のひとつとして挙げられるのは少子化だ。

「少子化は今後も進行していきます。18歳人口は2030年を過ぎると100万人を切り、2040年にかけては90万人を切る見通しです。進学率が57%まで上昇すると仮定しても、2040年の大学進学者数は12万人減の51万人になると文科省は試算しています。急激な変化ではなく、同じようなペースで減リ続けていきます」

こうした中で、教育に大きな変革をもたらすのが、サイバー社会の到来といえるだろう。

「いわゆるAI、ロボット、IoT、ビッグデータといったような第4次産業の社会は以外に早く来るのではないかと思っています。政府が打ち出したソサエティー5.0のサイバー社会が到来することで、働き方や産業構造が大きく変わります。こうした背景のなかで、高等教育がどうあるべきかが新たに付け加えられたことだと思います」

東京の大学、地方の大学には異なる規制や課題もあるという。

「東京都内の大学は、地方創生問題が大きく影響しています。東京23区内の学生数増員を規制することになり、来年度からは増員できません。増員を伴う学部学科の増設が認められなくなるのです。さらに、全国の大学で入学定員に対する充足率について、従来は8,000人未満の場合1.3倍までだったのが、1.0倍に抑えられます。そのため、合格者数を絞らなければならないのです。都内の大きな大学は定員が多いため、その影響はさらに大きくなります。既に従来と同じ学力では希望する大学に合格できないという状況が見られています」

放送時の6年前と比較すると、行政の規制の枠が厳しくなっていると言える。

「ソサエティ5.0の世界で高等教育がどうあるべきか、中央教育審議会の将来教育部会で、多様な業種と教育関係者によって議論をしているところです。その中間報告によると、規制緩和とともに教育の質は厳しく追い求めるよう指針が出されました。低レベルの学生を受け入れて、4年間で付加価値のある教育をして卒業させること、その結果を指数で示すことが求められています。付加価値を付ける構造をカリキュラムの中に埋め込まなければ、設置審からは認められず、学部や学科の新設ができません。規制緩和の面では1学部について学部専任の教授から学部兼任、大学間の兼任を認めるという方向です。また、学部の中の学科であったのを学部や大学間で共用の教養学科が作れるようになるのです。これによってコストの削減が図れます」

単位互換についても、両大学で同じ学部を持っていなければ互換できなかったものが、なくても単位互換ができるようになる。自分の大学にない学部の単位を他の大学で受けられる。

「さらに、地方では地域連携推進法人として、国公立大学が傘下に法人を作り、大学の下に複数の大学がぶら下がれるようになります。このほかにも教育を取り巻く環境には、大きな変化があり、これからは柔軟な頭脳を持っていないと大学経営ができません。気がつくと乗り遅れているということにもなりかねないのです」

創立140周年を迎え新たな長期ビジョン「N’2030 Plan」を発表
グローバルな社会で活躍できる、国語力を持った人材を育成

学校法人二松學舍は、創立135周年の2012年に長期ビジョン「N’2020 Plan」を発表。
2017年には、創立140周年記念式典で、新たな長期ビジョンとして策定した「N’2030 Plan」を発表した。

「急速な状況の変化に対応し、N’2030 Planを作りました。これはN’2020 Planを継承するものです。N’2020 Planでは2つの新学科を新設しました。ひとつは文学部 都市文化デザイン学科です。文学部開設以降60年以上の歴史の中で、初の新学科です。もう一つは国際経営学科です。両学部の定員も増員しました。また奨学金制度の大幅拡充、キャンパスの整備など、約7割の達成を実現しました」

行動計画としてアクションプランを毎年度策定して、課題の改善や環境の向上を図ってきた結果が表れたといるだろう。

「N’2030 Planには、画期的なことを盛り込みました。大学経営を経営資源、入学、在学中(教育段階)就職(出口)、卒業後の5局面に分けて、各々の局面においてコアとなる指標をあてはめて考えます。指標には目標校(ベンチマーク校)を決めて、目標校の平均値と本学の平均値を比べ、そのかい離がどのように生じてきたのか、課題を抽出してアクションプランとして計画を立てるものです。これはかい離がなくなるまで続けます。大学のブランドを引き上げながら目標を達成していくことを考えています」

これらの目標はダッシュボードとして一覧にして収め、進捗状況を管理しつつ、総括目標を達成していく。この方式は企業と共同開発し、将来的には他の学校にも提供していく方針だ。他大学の模範になる経営モデルの構築を進め、これを共有化する。

同大学では、これからのグローバルな社会で活躍できる人材を育成していく。

「育成する人材像は、知識とそのスキルであるコミュニケーション力、創造力、論理的な思考力を兼ね備えた人間性を三位一体に作っていくことです。知識には基本的な教養と専門的な知識があります。数理データマインドをつけるためには文系でも数学が必要です。コミュニケーション力、表現力などを培うのに必要なのは国語力です。すべての基本となるのは優れた国語力なのです」
語学を学ぶ際や、論理的な思考力をつけるためにも国語力はその中心に位置づけられる。社会や時代がどう変わっても、日本において国語はなくならない。同大学は今後、これまでに積み重ねてきた伝統を重んじながら、時代に即した人材教育を行っていく方針だ。

時代変化を見据え「第2の創業」チャレンジを

時代変化を見据え「第2の創業」チャレンジを

デジタル革命、AI(人工知能)など時代を変革するファクターが本格的に動き出せば、企業によっては、本業消失のリスクが現実化する恐れもある。現に、米国でプラットフォーマーのアマゾンのEC(電子商取引)の攻勢によって、小売り大手シアーズなど有力企業が相次ぎ経営破たんに追い込まれている。

これらの動きを踏まえ、企業は時代に合わなくなったビジネスモデルを見限って「第2の創業」にチャレンジできるだろうか。率直なところ、どの企業にとっても組織の命運を左右する問題だけに、簡単には踏み出しにくい。
そんな中で、そのチャレンジに成功した富士フィルム、とくに新たなビジネスチャンスを模索する同社先進研究所の現場を最近、見聞する機会があり、学ぶことがとても多かった。それらを参考に問題提起レポートしてみよう。

富士フィルムは当初「本業消失」に強い危機感

デジタルカメラなどの登場で、写真の銀塩フィルムが不要になる、という時代変化のもとで、米イーストマン・コダックと日本の富士フィルムは、互いの企業行動の差によって、対照的な結果になったことはご存知だと思う。
まずコダック。デジタル技術への取り組みで先行していたはずなのに、経営トップがフィルム生産で世界トップシェア企業の自負からか、旧来の銀塩写真フィルムの生産にこだわった。それが時代変化の読み誤りにつながり、結果的に、2012年の経営破たんを招いてしまった。

ところがライバル企業の立場にあった富士フィルムは違った。トップリーダーの危機感が強く、2000年に社長就任した現富士フィルムホールディングス会長の古森重隆さんが本業消失危機、という強い問題意識を持ち、「第2の創業」に向けてチャレンジした。古森さんは自著「魂の経営」(東洋経済新報社刊)で、そのチャレンジ策を盛り込んだ「VISION75」を4年後、内外にアピールするにあたって、社内に対し、次のようなゲキを飛ばした、と書いている。

「トヨタの自動車、新日鉄の鉄がなくなるのと同じ」

「(富士フィルムの)現状をトヨタ(自動車)にたとえれば自動車がなくなるようなものだ。新日鉄にたとえれば鉄がなくなることだ。写真フィルムの需要がどんどんなくなっている今、我々は、まさにそうした(本業消失の)事態に、真正面から対処しなければならない」と。

富士フィルムは、苦闘しながらも「第2の創業」に向けた必死のチャレンジによって化粧品・サプリメント、医薬品、半導体材料などの新規事業を次々に生み出し、写真フィルム企業のイメージをガラッと変えた。見事なものだ。
しかし興味深いのは、リーダーの古森さんが「銀塩写真中心の写真事業を継続し、さらなる写真文化の発展をめざす」考えを貫いたことだ。その結果、写真フィルム事業を深化させると同時に、そのフィルム技術を生かして新規事業の開発に取り組み、レントゲンフィルム、コンピューター用バックアップテープ、液晶用フィルムなどの事業をビジネス化した。

不動産を中心とした幅広い事業で躍進するコーニッシュの若手社員に聞く、事業の魅力と働きがいとは?!

不動産を中心とした幅広い事業で躍進するコーニッシュの若手社員に聞く、事業の魅力と働きがいとは?!

株式会社コーニッシュ
大阪本社 不動産事業部
今村 健人
株式会社大阪農林会館
プラザ梅新ホテルマネージャー
山口 王子(おこ)
株式会社ラインビルド
営業
伊東 宜浩
 

株式会社コーニッシュ 大阪本社 不動産事業部 今村 健人

リノベーションで高付加価値の物件を実現
地域に密着した愛される不動産事業を展開

株式会社コーニッシュ 大阪本社 不動産事業部 今村 健人

企業の成長を支えるのは優れた人材。躍進を続ける企業には、人が育つ環境がある。若手社員の声から、その秘訣を探る「成長企業の法則」。不動産の創造・再生、仲介、土地活用、地域サービスなどを手がける株式会社コーニッシュで働く、大阪本社 不動産事業部の今村健人さんに聞いた。

コミュニケーションカを生かし、社員に愛される企業を目指す

金融機関勤務を経て入社した今村さんは、現在、不動産事業部で営業を担当している。

「入社当初から、収益不動産の売買を中心とした営業をしています。当社では、主に収益不動産を取得、または開発することにより、運営収入とその後の売却により利益を上げています。取得する不動産は稼働率が低かったり、老朽化しているなどの要因を抱えていることが多いのですが、当社は取得した物件をリノベーションするなど付加価値を上げて収益性を高め、売却することを得意としている企業です」

不動産の価値を上げるためには、専門的な知識やコミュニケーションスキルなどが求められる。今村さんは既に数多くの実績を積み重ねている。

「例えば、今春売却した事例は、もともと商店街にあるパチンコ店でした。このエリアは、マンションデベロッパーにも人気のエリアで、競合が予想されましたが、マンションデベロッパーが更地にして新たにマンションを建てるより、有利な条件を当社が提示し、買い取ることができました」

既存の建物を取り壊さず、リノベーションにより新たな用途に再生させ、収益性を高めたことで、売主に対し、有利な条件が提示できたものだ。

「地下1 階はフィットネスクラブ、1 階と2階はドラッグストア、パチンコ店の寮だった3階部分はワンルームマンションとして賃貸物件にしました」

株式会社コーニッシュ 大阪本社

パチンコ店をフィットネスクラブや物販店などに用途変更するためには、法規制などの知識が求められる。また、ドラッグストアなどのテナントを誘致するためには、出店計画に合致する物件かどうか、日頃からのコミュニケーションがものを言う。

「相手に信頼される関係を築くのが大切です。信頼を得るために、まずは誠実に自分の心を開くことです」

同物件には、エリアでトップクラスの規模を誇るドラッグストアが入り、商店街の賑わいなど地域にも大きく貢献する結果になった。今村さんに5年後の自分を想像してもらった。

「時代の流れや変化に合わせて、求められる物件も変わっていきます。これに柔軟に対応した不動産にチャレンジしていきたいと考えています。また、企業経営者としての手腕も磨いていきたいと考えています」

父親は同社のグループ代表を務める今村聖三氏だ。尊敬する人物は両親だと即答してくれた。

「昔からずっと父の背中を見てきました。自分に妥協せずに努力を続ける男らしい人です。また、仕事で忙しい父を支え、家族を守ってくれる母にも感謝をしています」

そこから得たのは、人間関係の大切さ。1人ひとりがプライドを持って、誇りに思うような、社員から愛される会社を作っていきたいと語ってくれた。

幅広い4つの事業でスマートライフをサポートする、マクセル株式会社の成長を支える若手社員に迫る

幅広い4つの事業でスマートライフをサポートするマクセル株式会社の 成長を支える若手社員に迫る。

 

ライフソリューション事業本部
生産本部 生産管理部 業務課
高階 裕斗
エナジー事業本部
電池本部 MD技術部 水溶液系電池設計課
鳥井 弘渉
光エレクトロニクス事業本部
ユニット事業部 プユニット製品部 設計第2課
馬場 雄輔

 

ライフソリューション事業本部 生産本部 生産管理部 業務課 高階 裕斗

幅広い業務に携わることで得られる経験 その積み重ねが確かなスキルアップに

企業の成長を支えるのは優れた人財。躍進を続ける企業には、人が育つ環境がある。若手社員の声から、その秘訣を探る「成長企業の法則」。エネルギー、産業用部材料、電器・コンシューマー製品メーカーのマクセル株式会社で働く、ライフソリューション事業本部 生産本部 生産管理部 業務課 高階 裕斗さんに聞いた。

生産管理部は「なんでもやる部」豊富な業務にやりがいを感じる

主に理美容製品やマッサージチェアのメカ、アルカリイオン水生成器などの製造を手がけるマクセル株式会社 九州事業所(福岡県田川郡福智町)。高階さんは同事業所で作られる製品の生産管理に携わっている。

「九州の工場では電動のシェーバー、フェイスケア用の保湿サポート器、ドライヤーなどを製造しています。私は主に海外向けの製品を担当しており、工場の生産ラインの調整や、物流部門と連携してトラックや船便を手配するなど製品の出荷に関わる仕事をしています」生産管理部の担う業務領域は幅広い。

「基本的には製品の生産調整と出荷担当なのですが、けっこう『なんでもやる部』なのです。お客様が来られた際に営業担当と一緒に来客対応をしたり、生産の調整時には製造ラインに入ることもあります。中でも、部内で、私は若手なので、とにかくいろいろなことをやらせてもらっています。その経験は他ではなかなか得られないスキルとして、着実に身についてきていると思っています」
多岐にわたる業務に携われることは、大きなやりがいになる反面、大変なこともやはりある。

高階さんの勤務する九州事業所

「業務が多岐にわたることで、直属の上長だけでなく指示系統が多いのです。品質保証や設計部門から、お客様にお送りする海外向けの英語文書の校正を引き受けることもあります。求められるものが多いので、付いていくのがやっとということもあります」
外国語学部在籍時から、漠然と日本のメーカーで海外取引に関わりたいという希望を持っていたのだという。ひとつ目の夢は、現在の職場で実現した。

「ASEAN向けにアルカリイオン水生成器の輸出を立ち上げたプロジェクトは、自分にとって大きな達成感がありました。製品の設計や開発は設計部門、部材の調達は調達部門が行い、製造部門が製造するのですが、それ以外、数字のとりまとめや関税・通関書類の作成、出荷スケジュールの調整、アジア担当の営業部門とのやり取りなどを初めてひとりで任されました」
仕事に取り組む情熱とともに、関わる多くの社員からは、温かさを感じるという。
「全社的にそうなのですが、とくに九州では直接対面するなかで、人としての温もりを感じます。失敗して叱られても、冷たくあしらわれるのではなく、最後まできっちり面倒を見てくれるという印象で、まるで家族のような距離感です」
高階さんはさらに大きな夢を抱いている。大学時代に専攻したスペイン語を生かし、ラテンアメリカ・パナマの販社に赴任したいという思いだ。いずれは営業の最前線で、現地のお客様と直接やり取りをしたいという。経験と研鑽を積み重ねる毎日は、夢の実現に向けた未来へと続いていく。

深刻な人材不足の到来を追い風として業績を更に向上 事業領域の拡大を支えるブランド指針

放送15周年の特別インタビューとして、これまでに「賢者の選択」にご出演いただいた方々に、時代や環境変化への対応や展望についてお話しを伺いました。
(ディップ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 冨田 英揮:賢者の選択ご出演 2014年11月放送)

紙からネット、スマホへのシフトがほぼ完了
独自性を高めたサービスで大きな差別化を図る

 アルバイト・パート情報サイト「バイトル」、社員の求人情報サイト「バイトルNEXT」をはじめ、「はたらこねっと」「ナースではたらこ」など、独自の求人サービスを展開するディップ株式会社。

「当社はアベノミクス以来、5年間で日本一株価の上がった企業です。この背景にあるのは、やはり空前の採用難です。番組放送当時、これはすでに始まってはいたのですが、現在ではさらに加速し、深刻な人材不足を迎えています。これは当社にとって大きな追い風になりました。潮の流れを業界の中でいち早く感じて、人材採用や広告を増やしたことが経営にメリットをもたらし、業績アップにつながったのだと思います」

独自のサービスを打ち立てながらも、業界内では熾烈な争いは続いているという。

「求人業界内の競争は以前から激しく、中でも急激に紙媒体からネット化が進み、現在はほぼ完了した状況です。当社ではスマホへのシフトをいち早く進め、スマホユーザーの囲い込みができています。サービスの細分化によりパート層に力を入れました。当時は新聞の折り込み広告が強かったのですが、その効果が落ちて、スーパーなどパートを取り込む企業が困っていたのです。そこに当社のサービスが功を奏しました。多様化が進み、外国人の方のユーザーもかなり増えています」

ユーザー層で差別化するだけでなく、目的や就業形態からのアプローチも積極的だ。

「いま力を入れているのはWワークです。副業としてできる仕事や、「しごと体験」「職場見学」が好評です。初めてアルバイトを始める方、もしくは副業として働き続けていけるかどうかといった不安を、実際に見学し、体験することで解消してもらえる当社独自のサービスです。採用前に企業と求職者が繋がる機会を増やし、就業後の双方のミスマッチをなくすことができます」

この「しごと体験」「職場見学」は冨田氏の発案によるものだという。

「はじめてアルバイトをする人は、どういったことが不安なのかを考えて、実際に見学し、体験できれば安心感が増すのではないかと考えたのです。従来から一部の業界では採用前に体験するという方法があり、これを取り込んだのです。こうしたアイデアを事業に生かすことで、他社との差別化が大きくなります」

非正規雇用者を中心としたユーザーファーストを打ち出し
時給アップや労働格差解消、地位向上にもつとめる

企業に対しては、時給を引き上げてよりよい人材の応募者を増加させるなど、採用コンサルとしてのアドバイスも行う。

「私たちが事業をはじめた頃は、なかなか時給が上がらなかったのです。アベノミクスを受け、2013年以降より当社独自のレイズザサラリーキャンペーンを行ったこともあり、現在では当社に掲載している企業は、平均時給が高く設定されています。もちろん、低い時給で人材が集まれば、経営的にはよいのですが、採用できなければ事業が成り立たないほど採用難なのが現状です。人が採れない原因や定着率が低い原因が時給ならば、これを上げることで解決が図れるのです。もともと非正規雇用の労働格差をなくし、地位向上を図る目的があります。ただ単にこれを叫ぶのではなく、ユーザーのために何ができるのかを中心に考えているのです」

ベンチャー企業にとって「変化」と「対応」が重要なキーワードで、そのタイミングが大切と放送時にも語っていた。

「現在の業績はよいのですが、リーマンショックの経験を踏まえて、不景気になったときにも対応できる事業強化を図っています。自社で立ち上げたり、投資をしたり、アライアンスなどの取り組みをしています。石灰石を主原料とした新素材『LIMEX(ライメックス)』製品を企画・製造している株式会社TBMへの出資や、給料日を待たずに働いた分の給与を受け取れるサービス『ほぼ日払い君』『給料サプリ』など、事業に関連するものからそれ以外にも広げています」

今後は求人分野の強化と新規事業を育成し、さらなる飛躍を目指していく方針だ。

「求人分野のなかでも特にアルバイト向けサービスにおいてNo.1を狙っていくのはもちろんですが、これに加えて新規事業を早く育てていきたいと考えています。業界内にテクノロジーの変化はあっても、変わらない部分も多いのです。やはり早すぎてはダメですし、今のビジネスモデルを確立しながらユーザーの動向を見つつ、新しいサービスを立ち上げていきたいと考えています」

同社はブランドステートメント「One to One Satisfaction」をブランドの指針として掲げている。ユーザー、クライアント、社員、パートナー、株主すべての満足度を高め、社会へ大きく貢献しながら事業の発展を図っていく。

切り拓いた宅配ロッカー事業にネット通販の追い風 各種シェアリングサービスで用途拡大も図る

放送15周年の特別インタビューとして、これまでに「賢者の選択」にご出演いただいた方々に、時代や環境変化への対応や展望についてお話しを伺いました。
(株式会社フルタイムシステム 代表取締役 原 幸一郎:賢者の選択ご出演 2006年6月、2010年8月放送)

ネットショッピングの隆盛で宅配ロッカーが人気
ロッカーのある賃貸マンションは物件選択時にも有利

宅配ロッカーのリーティングカンパニーとして業界を牽引し、24時間の通信管理(遠隔管理)で高いシェアを誇る株式会社フルタイムシステム。先見性の高い事業展開を社会の変化が後押しし、業績を大きく拡大している。

「一番の変化は物流です。インターネットを利用した通信販売で宅配物の量が圧倒的に増えました。当社は24時間の管理体制を敷いています。ロッカーが満杯になると管理センターで状況が把握できるのですが、約4年前から、毎月満杯になってきたのです。これは極端な伸びでした」

ロッカーの設置数は、管理会社などと居住者の在宅状況を調査して決められるのだという。

「事業開始当初は、分譲マンションにお住まいの1/3の方が部屋におられ、1/3の方がときどきおられ、1/3の方がおられないという調査結果が出ていました。そこで住戸数に対して1/3の量のロッカーを作りました。当社では、24時間体制で管理することで、なかなか荷物をお出しにならないお客様にはメールや音声、はがきでお知らせするサービスが可能になり、デベロッパー様からはロッカーの数は10%~15%でも十分というご判断をいただいていたのです」

ところが、ネットショッピングの増加で、従来の数では足りなくなり、ロッカーの設置台数を増やす傾向になったのだという。さらに先頃、住居やビル、病院など、どの施設でもロッカーは容積の対象から減らすこととなり、設置条件が整った。

「はやり最大の動きは、インターネットショッピングの隆盛により、宅配ロッカーの設置に急激な追い風が発生したことです。これと同時に賃貸マンションの市場も生まれました。従来は分譲マンションが中心で、賃貸向けにはあまり需要がなかったのですが、急に需要が高まり、現在では不動産会社の物件検索時にも、ロッカーの有無が住居選びのポイントになっています」
これまで設置していなかった賃貸マンションにロッカーを設置することで、入居率が高まるという数字が出ているのだという。

カーシェアリング、シェアサイクルなどにも活用
分譲だけでなく賃貸マンションの潜在需要に大きな期待


「宅配利用だけではありません。時代が変わりつつあります。レンタカーのサービスにも、自動車会社と提携してロッカーを鍵の置き場所に使うことで、利用者はムダなレンタル時間を削減することができます。カーシェアリングにEV車輌を採用することで、防災時にはマンションの非常電源として、車輌のバッテリーを携帯電話の充電などに使うことが可能です。また、シェアサイクルではロッカー内で充電することで、充電済みバッテリー量の多いものから順にレンタルできる仕組みを作りました。バッテリーがカギの代わりになり、ロッカーに戻すことで充電が始まります。マンションの駐輪場は自転車であふれていますが、シェアサイクルを導入することで景観や共有スペースを削減することが可能です」

同社の事業は、労働職不足が深刻化する物流サービス業界において再配達を減らし、CO2の削減にも大きく貢献している。

「ここに来て一気に時代が追いついてきたという状況です。賃貸の市場はまだ始まったばかりで、未開拓の大きな潜在需要があります」

今後は宅配の荷物などモノを補完するだけでなく、ロッカーを利用したシェアリングサービスの展開や24時間通信管理を活用した非接触ICセキュリティシステムや決済システムの導入などその用途は大きく広がっていく。

個と個のマーケティングで広がる「キヨーレオピン」カウンセリングの充実とトレーサビリティを実現

放送15周年の特別インタビューとして、これまでに「賢者の選択」にご出演いただいた方々に、時代や環境変化への対応や展望についてお話しを伺いました。
(湧永製薬株式会社 代表取締役社長 湧永 寛仁:賢者の選択ご出演 2010年12月放送)

信頼のブランド「キヨーレオピン」
ドイツでの医薬品認定を推し進める


 熟成ニンニク抽出液(Aged Garlic Extract)を主原料とした滋養強壮剤「キヨーレオピン」などを手がける湧永製薬株式会社。医薬品を取り巻く環境はどう変化を続けているのだろうか。
「病気になったら治しましょうという治療中心の医療から、予防や健康寿命の大切さが高まってきました。また、インターネットの発達により、ここ10年でマスマーケティングからインディビジュアルマーケティングという、個と個でつながるマーケティングに変わってきました」

実際に同社製品を扱う薬局にも変化が訪れているという。

「当社は取扱店にトレーサビリティシステムを導入しました。各薬局に1店舗1台の専用端末を設置していただき、当社の製品を中心として医薬品の一部のトレーサビリティを実現しています。さらにプラスアルファとして、マーケティングデータの収集もしています。ワクナガメンバーズカードを発行して、お客様の属性や購買履歴などを分析した結果、さまざまなことが分かるようになってきました。これに沿ってきめ細やかなカウンセリングができるように目指しています」

同社は創業当初から予防とカウンセリングを大切にしてきた。個別対応で培ってきた個の対応が今後はさらに重要になるという。

「カウンセリングはFace to Faceが望ましいと考えます。ネットは便利ですが、当社としてはどう来店していただき、カウンセリングを受けていただくか、その大切さを前面に出していきたいと考えています。ネットを告知媒体として利用しながら、基本はカウンセリングを通じて予防の大切さをお伝えしていく方針です。今までも、これからもこの方針は変わりありません」

同社の製品は薬局だけでなく、スーパーなどにもサプリメントとして流通している。

「当社のブランドは、日本では『キヨーレオピン』、海外では『キョーリック(Kyolic)』の名称で展開しています。新たなお客様への提案として、日本で“キョーリック”のブランドを展開しはじめました。困っていることはないけれど、サプリメントで予防したいという方向けの商品です。チャネルという意味でも薬系だけでなく、食料品店やスーパーなどへの展開も図っています。アメリカではヘルスフードストアで展開していますから、今後、食系の店舗でサプリメントを買う時代が来るのを見越して、手に取っていただける商品として発売したものです」

同社はアメリカに現地法人ワクナガ・オブ・アメリカ(WOA)を設立するなど、海外へも積極的な展開を行っている。

「海外展開は50カ国を超えました。現在は、ドイツで医薬品としての展開を目指し、積極的な取り組みを進めています。2017年には100%子会社のワクナガ・オブ・ヨーロッパ(WOE)を設立し、ドイツに医薬品としての認可を求める申請を出しました。この結果は2018年末から2019年初頭には判明する見込みです。ドイツで医薬品として流通できれば大きな信頼につながり、ヨーロッパや日本にもよい影響が広がると思います。近い将来、アメリカ、ドイツ、東南アジアと、日本を含めた4拠点に広げ、最終的には全世界での販売を視野に入れています。

大切なのはしっかりとしたエビデンスなのだという。

「長年の研究開発で分かったことは多数ありますが、まだまだ解明されていないこともあります。これまでの研究で判明した成果は、来年初めて日本で開催される、国際ニンニクシンポジウム(International Garlic Symposium)で発表する予定です。これは2019年5月末に、ニンニクを研究している世界の科学者などが広島に集まり、研究成果を発表するものです。当社の研究している熟成ニンニク抽出液の良さを、エビデンスを含めて発表する予定です。熟成ニンニク抽出液は、世界に通用する素材である自信があります」

湧永製薬ハンドボール部”レオリック”が活躍
スピードとパワーのエキサイティングなスポーツ

同社はスポーツの振興に努め、なかでもハンドボールに力を入れている。社内ではハンドボール部”LEOLIC”(レオリック)があり、同氏は公益財団法人 日本ハンドボール協会の会長としても活動している。

提供:日本ハンドボールリーグ機構

「当社の製品のコアユーザーは、比較的年齢層の高い方ですが、ハンドボールに関わる方は若い人が中心で、層の違いを感じています。ハンドボールの支援は私自身としても大きなチャレンジだと思っています。ハンドボールの魅力はなんといってもスピードとパワーです。走る、飛ぶ、投げるがミックスしたエキサイティングなスポーツなのです。また1試合で両チーム合計すると50点くらい入りますから、40秒〜50秒以内にひとつのドラマが生まれ、盛り上がるので見ていても飽きません。とても魅力ある楽しいスポーツです。多くの方はご存じないかもしれませんが、オリンピックの観客数はサッカーに次ぐ人気です。その魅力を日本でも広めていきたいと思います」
 
 
 
楽しく健やかな毎日に求められる医薬品やスポーツ。同社はその両面をこれからも力強くサポートしていく。

シリコンバレーから日本を見つめ誕生 AI翻訳機 POCKETALK
世界マーケットへ

放送15周年の特別インタビューとして、これまでに「賢者の選択」にご出演いただいた方々に、時代や環境変化への対応や展望についてお話しを伺いました。
(ソースネクスト株式会社 代表取締役社長 松田 憲幸:賢者の選択ご出演 2005年9月放送)

2012年、家族とともにシリコンバレーに
ITの世界的中心地に大きなビジネスチャンス

ソフトウエアは高価なものという従来からのイメージを大きく覆し、2003年には1,980円という低価格でソフトウエアの販売を実施。瞬く間に急成長を遂げ、日本の代表的なソフトウエア企業としての位置づけを得たのがソースネクスト株式会社だ。
その当時、5,000円から10,000円が中心価格帯だったソフトウエアのコストを大幅に下げ、高い機能はそのままに消費者が手に取りやすい商品を展開する画期的な戦略はすぐに定着。家電量販店だけでなく、コンビニや書店にも販路が広がったことは、業界に大きな影響を与えた。さらに、同社が取り扱う商品自体にも魅力があり、多くのファンを生んだ。

同社を率いる松田氏の活動拠点は、現在、アメリカ・シリコンバレーにある。

「2012年に米国法人を設立したことをきっかけに、私自身も家族とともにシリコンバレーに移り住みました。現在ではおよそ6割が現地での活動です。」

原動力はスピードの重視と他社がやらないオリジナリティ。そう語っていた同氏が自ら体現したのは、企業トップ自らの海外進出だった。

「私自身が現地に拠点を構えることで、決断スピードは著しく向上しました。これは出張等で頻繁に滞在することではなく、そこに居住することで実現できたのです」

世界のITはシリコンバレーを中心に動いている。その中心に自身がまず身を置き、シリコンバレーの取引先と直接対面してやり取りすることがスピードを何倍にも加速するという。もちろん、取引先はシリコンバレーに本社を構える企業ばかりではない。しかし、IT関連企業などのトップは年に何度も世界中からシリコンバレーを訪れる。そこに新たなビジネスチャンスがあるという。

「シリコンバレーにいると、ここがITを取り巻く世界の中心であることを本当に実感します。東京にいてはアポイントの取れない方とも日常的に会うことができます。日本ではなかなか話すチャンスのない日本の方とも現地ではゆっくり話し込めます。同時に、日本を離れることで、不思議と世界から見た日本の現状と今後の姿を冷静かつ的確に捉えられるようになってきます。日本国内にいてはまったく見えてこない新しい感覚です」

日本人が抱く「言葉の壁」を解消する
音声翻訳機『POCKETALK』に第2世代が登場

同氏がかねてから打ち破りたいと考えていたのは言葉の壁だ。日本人の多くが持っている英語など語学への抵抗をビジネスを通じて取り払いたいという思いを持っていたという。

「2017年に英語からヘブライ語まで、24の言語をカバーする世界的な語学プログラム『ロゼッタストーン』の日本法人を買収しました。当社が手がけることで、数万円だった製品を数千円で提供できるように価格設定しました」

パソコンだけではなく、スマホやタブレットを使って、いつでもどこでも学習できる語学プログラムは、同社の新たなヒット商品になった。

さらに日本人の言葉の壁を解消する取り組みは続く。

「互いに相手の国の言葉を知らなくても、まるで通訳がそばにいるかのように対話ができる音声翻訳機『POCKETALK(ポケトーク)』です。これはソフトウエアやスマホのアプリではなく、あえて専用のコンパクトなハードウェアにすることで、操作の簡単さや高い翻訳精度を実現しています」

翻訳エンジンは端末に内蔵するのではなく、クラウド上に置かれる。これにより常に最新で最適なエンジンを採用することにより高い翻訳結果が得られるという。端末にグローバルSIMを内蔵しているため、海外でユーザーが通信環境を整える必要はなく、109の国や地域で自動的に通信回線に接続される。月額通信料や追加費用は不要で通信料は2年間使い放題だ。

POCKETALK(ポケトーク)

「これも、私がシリコンバレーにいなければ、手がけることのない製品だったと思います。今秋から新モデルが登場し、さらに翻訳精度や使い勝手が向上しています」

既に外国人観光客などに接客する日本国内の大手企業からも引き合いがあり、2020年に向けた大きな需要も予見される。

「日本と海外というばかりでなく、世界的に受け入れられる製品だと確信しています。また、機械なので何度話しかけても嫌な顔をされることはありませんから、言語学習にも役立ちます」

今年10月には、米国での展開も開始した。日本からシリコンバレー、そしてその先の世界へと同社の事業は大きく広がっていく。

社会的矛盾あるところにビジネスあり 千本倖生氏の起業道

通信事業で幾度も企業した千本倖生氏。
連続起業家と呼ばれる千本氏が、今力を注ぐのが再生可能エネルギー事業だ。
欧米に比べて普及が進んでいない、日本の再生可能エネルギー事業を育てたい。
76歳の起業家の思いである。

Chapter One 再生可能エネルギー事業への新たな挑戦
時価総額1兆円企業へ
地域とのWin-Winで実現目指す

北海で見た洋上風力発電の姿
世界の潮流に乗り遅れる日本に危機感

千本氏の頭の中には鮮明に残っている光景がある。昨年の秋、デンマークに向かっていた機中から見た北海の姿である。
コペンハーゲン空港に向かって、飛行機が高度を下げていくと、眼下の海原にはおびただしい数の洋上風力発電の大きなプロペラがゆったりと回っていた。日本では目にしたことがないスケールの大きな光景だった。
油田開発が盛んだった北海周辺に、洋上風力発電という再生可能エネルギーのブームが到来していることがよくわかる。
「日本では再生可能エネルギーを利用した発電はまだまだ普及していないが、世界に目を向ければそれは違う。世界的な大変革がエネルギー分野で起きているのに、このままでは日本はその潮流に取り残されてしまう」
そんな日本への危機感がエネルギーとなって千本氏の起業家魂に再び火がついた。
2030年に向けた日本政府の再生可能エネルギーの導入目標(発電量ベース)は22~24%だ。一方、欧州の再生可能エネルギーはデンマークではすでに50%に迫り、スペイン、イタリア、ドイツは30%を超えている。日本は世界の変化に大きく立ち遅れてしまっている。その遅れを何とかして挽回できないものかと千本氏は今、考えている。

レノバへの経営参画の理由
木南社長との出会いと「宗教的改心」

再生可能エネルギーを利用した発電事業の開発・運営を専業とする「レノバ」に千本氏が参加したのは14年。通信会社のイー・アクセス(現ワイモバイル)の経営から退いた翌年だった。
千本氏がイー・アクセスの経営から退いたのは、ソフトバンクへ売却したためだった。それまでの猛烈な仕事ぶりからは想像もできない、ゆったりとした日々がやってきた。その時、千本氏は、それまで一心不乱に働き続けていただけに燃え尽き症候群のような症状に陥ったという。それを救ったのが、知人から紹介されたレノバの木南陽介社長との出会いだった。
レノバの前身は、木南氏ら2人が00年に創業したリサイクルワンという会社。プラスチックのリサイクル事業を手掛けていたが、13年12月に社名をレノバに変更し、新規事業として再生可能エネルギー事業への本格的な参入を目指した。ちょうどそのころ千本氏は木南氏と出会い、木南氏から経営参画を打診された。
当時のレノバには課題があった。再生可能エネルギーを利用した電力事業を手掛けるには、経済産業省などの中央官庁や大手電力会社との折衝が不可欠だった。電力事業はリサイクル事業とは異なり、設備投資の規模も格段に大きいインフラ事業だが、木南氏らにはいずれも経験が少ない仕事だった。
一方、千本氏にしてみればエネルギー業界の事業構造は国家的なインフラ事業であるという点で通信業界と似通っている。千本氏の通信業界での経験がエネルギー業界でも活かせそうだった。千本氏の心の種火に再び火がついた。
木南氏の経営者としての魅力も千本氏を引き付けたが、これに加えて、エネルギー政策に対する「宗教的改心」が千本氏にはあった。
千本氏は11年の東日本大震災まで原子力発電の強力な推進派だった。京都大学工学部で原子炉の高度制御理論を専攻した。当然、東京電力の福島第一原子力発電所の事故が起きるまで、千本氏はエンジニアとして「原子力発電は人が制御できるもので、技術をもってすれば何事も解決できる」と信じていた。
しかし、大規模な原発事故が現実に起き、地震発生の翌日に起きた「水素爆発」の瞬間や炉内のすさまじい光景を報道で目の当たりにし、考えは変わった。
「原子力は、人の力でコントロールできないのではないか」
エンジニアリングの限界を痛感するとともに、原子力発電は制御できる安全なものだという千本氏の「信仰」は揺らぎ、「改心」せざるを得なかった。

再生可能エネルギーの将来シェア
40~50%へ高く掲げよ

千本氏は「再生可能エネルギーの目標を20~30%に置くのではなく、40~50%ぐらいまで引き上げるべきだ。大きな原発事故を起こしたことを考えれば、原発の再稼働は容易ではない。欧州のように再生可能エネルギーに大きく転換しなければならない」と言う。
そのためにはレノバを時価総額で数千億円から1兆円規模の会社にいち早く育て、エネルギー業界における再生可能エネルギーの存在感を高める必要がある。東証一部市場に再生可能エネルギー専業会社として初めて上場したのも、その意欲の現れである。
レノバが取り組む再生可能エネルギー事業は太陽光発電、木質バイオマス発電、風力発電、地熱発電と多岐にわたる。多様な再生可能エネルギーをバランスよく運営し、電力供給や電力事業をより安定的にすることを狙っている。

多様な電源の開発目指し
経営の安定を狙う

発電場所も全国各地に散らばっている。太陽光は茨城県潮来市、栃木県那須塩原市、千葉県富津市、静岡県菊川市、大分県九重町、熊本県大津町、開発中の三重県四日市市、栃木県那須烏山市、岩手県軽米町と広く分散している。また、秋田杉の産地、秋田県で県内全域から調達する間伐材などを活用し、林業・地域の活性化とともにバイオマス発電を手掛ける。秋田県由利本荘市沖では総事業費約4000億円をかける洋上風力発電の開発を進めている。地熱も、北海道や熊本県などで開発中だ。
再生可能エネルギーは地方に存在する、自然エネルギーを活用するもので、その地域との協調がなくてはならない。秋田でのバイオマス発電では燃料調達などで地元の林業業者との関係構築が必要だった。また由利本荘市沖の洋上風力発電では漁業関係者との粘り強い、話し合いが功を奏した。16年度から事業化調査に着手し、21年度から着工し、24年度からの運転開始を目指している。完成すれば日本最大級、アジアでも有数の洋上風力発電事業となる見込みだ。

地域との共存共栄 持続的な成長へ

電源の開発は発電場所の決定から、稼働までは5~7年かかる長期戦となる。発電後も地域との関係は数十年続く。地域に受け入れてもらえる事業ができないようでは、再生可能エネルギーの事業は成り立たない。レノバの東京本社の応接室には秋田の漁業関係者が書いた「共存共栄」という大きな額が掲げられている。千本氏は「再生可能エネルギー事業は地域の持続的な発展を持続可能な資源で実現するものです。結果として私たちの会社も持続的に成長できます」と話す。

福島第一原発事故はひとたび原発が事故を起こせば、地域の生活が根こそぎ失われてしまうことを図らずも示した。
千本氏の口癖は「社会的矛盾があるところにビジネスはある」だ。社会の課題、困り事を解決する商品やサービスを提供すれば必ず、事業は成功するという確信が千本氏にはある。会社の存在価値も社会の課題を解決することにあるのであって、利益を生み出すことだけにあるのではない。利益は会社が社会的課題を解決した結果に過ぎない。再生可能エネルギー事業で疲弊した地域社会の再生を果たし、しかも資源のない日本で持続可能なエネルギーを手にする――。そんな変革を千本氏は夢見ている。