時代刺激人 Vol. 185
牧野 義司まきの よしじ
1943年大阪府生まれ。
中国やASEAN(タイ、ベトナムなど東南アジア諸国連合10か国)といった新興アジアで最近、日本の食文化がブームから、さらに一歩先に進み、日本の食材が「おいしい」「安全で安心できる」「品質がいい」、そして「おもてなしの素晴らしさ」というサービスのよさへの評価も加わって、日本の食文化そのものが今や定着しつつある、という話を日本の外食関係者からたびたび聞く。
中国やASEAN(タイ、ベトナムなど東南アジア諸国連合10か国)といった新興アジアで最近、日本の食文化がブームから、さらに一歩先に進み、日本の食材が「おいしい」「安全で安心できる」「品質がいい」、そして「おもてなしの素晴らしさ」というサービスのよさへの評価も加わって、日本の食文化そのものが今や定着しつつある、という話を日本の外食関係者からたびたび聞く。中でも日本産の和牛肉のおいしさに評価が高まり、需要が着実に増えている、という。
最近、和牛の近江牛の牛肉輸出に力を注ぐ滋賀県の有限会社、澤井牧場の社長、澤井隆男さんに取材でお会いした際、その新興アジアでの和牛肉に関するわくわくするいい話を聞いたので、それを紹介しながら、今回のコラムで、和牛肉の輸出問題を取り上げたい。
タイでのフェアで滋賀・澤井牧場の
近江牛しゃぶしゃぶ肉が4日目で完売人気
澤井さんの話はこういうことだ。昨年8月、タイのバンコクで大阪はじめ近畿地域の食品などをアピールする「関西フェア」が開催された際、澤井牧場は輸出拡大のチャンスと近江牛を出品した。会場のデパートで12日間にわたってフェアが続いたが、澤井牧場のコーナーでの和牛肉の試食会に人気が集まり、わずか4日目で試食と合わせての販売が完売となり、大きな手ごたえを感じた、という。
日本の畜産農家などにとっては、元気の出るグッド・ニュースであり、近江牛の牛肉完売に至るまでの話がなかなか面白いので、もう少し具体的に紹介させていただこう。澤井さんによると、200グラムのパックにしてステーキ用としゃぶしゃぶ用のスライス肉の2種類で売り出した。しゃぶしゃぶがタイでは慣れない食べ方なので、会場で実演を兼ねて試食会を行った。タレはポン酢とゴマダレの2つ。
タイ富裕層が試食後の3日目に
「ショーケースの牛肉すべて買う」と異常反応
タイはタイ人のほか華僑の中国系、印僑のインド系が住む複合民族国家だが、試食会で最初に反応したのが初日に来たタイ人の富裕層とみられる層で、「日本の和牛肉の値段は高いが、おいしい。しゃぶしゃぶという食べ方がなかなか面白い」とすっかりお気に入り。そして面白いことに、そのタイの富裕層が1日おいた3日目にまたやってきて、何とショーケースのしゃぶしゃぶ用のスライス肉をすべて買いたい、との話。同時に、ポン酢とゴマダレもほしいと。
このタイの富裕層の「和牛肉のしゃぶしゃぶはなかなかおいしい」という店先での口コミが広がり、ショーケースに補充したあとも、和牛の近江牛肉の売れ行きがよく、4日目で完売した。持参した近江牛肉の手持ちがすべてなくなり、澤井さんにとってはうれしい話。澤井牧場は黒毛和牛を年間1600頭も肥育し、そのうちの20%を輸出にあてる意欲的な畜産経営で、新興アジアではシンガポール、タイ、それにマカオに輸出している。
澤井さん「タイは新興アジアの食文化の中継地、
日本は戦略特化が必要」
澤井さんは「タイにはすでに輸出していたが、この関西フェアでの売れ行きを見て、ステーキ肉と同時に、しゃぶしゃぶのような食べ方に関心を持ってもらい、潜在需要も見込めそうなので、戦略的に工夫して売り込んでいきたい」と自信を持った、という。現に、澤井牧場はタイの現地資本と連携して、本格的に販売強化を進めている。
しかし、ここで大事なポイントは、澤井さん自身が「タイは新興アジアの食文化の中核かつ中継地点でもあり、戦略的に特化することが大事だ」と述べている点だ。この場合の戦略的というのは、いろいろな取り組みが考えられるが、澤井さんのタイでの関西フェアの事例をもとに言わせてもらえば、1つのヒントは、近江牛という和牛肉を単体で売るのではなく、タイの富裕層が関心を示したしゃぶしゃぶという食べ方を徹底してアピールし、その際、ゴマダレやポン酢をセットにすると同時に、しゃぶしゃぶ用の鍋なども含めたトータルのシステム販売をしたら、着実に需要開拓につながると思う。
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