日本は積極平和主義に見合った難民支援を アジアの成熟国家としての真価が問われる!


時代刺激人 Vol. 276

牧野 義司まきの よしじ

経済ジャーナリスト
1943年大阪府生まれ。
今はメディアオフィス「時代刺戟人」代表。毎日新聞20年、ロイター通信15年の経済記者経験をベースに「生涯現役の経済ジャーナリスト」を公言して現場取材に走り回る。先進モデル事例となる人物などをメディア媒体で取り上げ、閉そく状況の日本を変えることがジャーナリストの役割という立場。1968年早稲田大学大学院卒。

きっとご記憶だろう。シリア難民の男の子が今年9月2日、難民の人たちを乗せた船の転覆で泳ぎ切れず、トルコ南部ボドルムの浜辺に痛ましい姿で見つかったことだ。

国連OBの緒方さん
「難民受け入れに積極性示さねば積極的平和主義と言えない」

本題に戻そう。私は、冒頭に述べたように安倍首相が積極平和主義を国際舞台でアピールしたのは、日本が存在感をアピールする意味で重要と考える。その延長線上で、難民問題や移民問題に関しても、日本が世界で役割を果たす必要があり、問題対応に必要な制度設計を行って受け入れ態勢を整えるべきだ。アジアの成熟国家の真価が問われている。

私としては、安倍首相の積極平和主義方針が単に日米共同安全保障や国連安保理常任理事国確保がらみだけのものとは思いたくない。ただ、国連難民高等弁務官OBの緒方貞子さんも9月24日付の朝日新聞朝刊でのインタビューで、「積極的平和主義をしようとしたら、そのためにどういう犠牲を払う用意があるか、というのを(安倍首相から)ほとんど聞かないでしょう。だから(首相の)お言葉だけというふうに受けとめています」と鋭く、「難民の受け入れに積極性を見出さなければ、積極的平和主義というものがあるとは思えない、と言っていたと(新聞で)書いてください」とまで言い切っている。確かに日本の政治リーダーとして、難民や移民問題に関して時代の動きを敏感に捉えることが重要だ。

日本は難民受け入れ契機に医療や年金のみならず
教育など社会システムづくりを

日本が今、難民受け入れの問題を考える場合、単にシリアなど紛争地域での難民への対応にとどまらない。いずれ北朝鮮が仮に崩壊という事態に至った時に、間違いなくボートピープルの形で難民が日本海沿岸地域に殺到した事例をケーススタディにして、どう対応すべきなのか、真剣に考えておく必要があるのは言うまでもない。

しかも、その問題と平行して、外国人の難民を受け入れた時の対応策として、医療制度や年金制度にとどまらず、外国人の子供たちの教育現場での日本語教育にとどまらず、これを機会にグローバル時代の教育現場での日本人の外国語対応、外国人との議論交流などの教育システムづくり、同じく企業の生産現場などでの外国人と日本人との協調行動、技術研修など、取り組むべきテーマは際限なく多い。日本は、難民や移民問題への対応をきっかけに、グローバル時代に対応した新たな社会システムづくりを考えるいい時期と思う。

欧州大学院大学長発言もヒント
「労働人口減少対応でEUは難民溶け込ませる必要」

そんなことを考えていたら、欧州の難民問題対応に関連して、今後の人口減少、労働人口減少問題と結びつけて考えるべきだ、と私と同じような発想をする人がいた。米国人だが、今はイタリア国籍を取得して欧州大学院大学(EUI)の学長を務めているジョゼフ・H・H・ワイラーさんだ。10月3日付の朝日新聞朝刊オピニオン欄での「試練のEU」問題に関するインタビューで述べている。ぜひ、参考にさせていただこう。

「欧州の多くの国は今後20年で人口が減り、60歳以上の高齢者の増加と労働人口の減少といった人口構成の変化に悩まされる。これに伴って生産性が落ち税収は減る。難民問題よりも、もっと深刻な事態だ」「大量難民の到来は、欧州に経済的・社会的危機がもたらされかねないため、短期的には、人道的な視点から早急に救済する姿勢が重要だが、中長期的には欧州の人口減少問題とからめて考えるべきだ」「今回の危機は、欧州にとって予行演習と言っていい。難民を受け入れ、難民を社会に溶け込ませて、今とは異なる新しい欧州に移行するための準備だ。欧州が生き残る道はそれしかない」と。

この欧州の話は、人口の高齢化、それと抱き合わせの人口減少問題では日本と、もろにリンクする話だ。一時的な退避の難民と違って、移民問題は日本国籍を取得して定住していく話だけに、社会システム設計も重要になる。今回のコラムでは移民問題には踏み込めなかったが、他の機会にぜひ取り上げてみたい。

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